月曜日は連休に挟まれた平日で、私は通常通り出勤した。

「で? アキと付き合うことになったわけ?」

「えーとですね、それはその……」

(麗華先生は直球だなぁ、もう)

診療時間が終わった後、麗華先生が私を気にして晩ご飯に連れて行ってくれたのだけど――先生の事情聴取に私はすっかりたじたじだった。

「違うの? アキはずっと清水さんに惚れてると思ってたんだけどなぁ」

「えっ」

麗華先生のつぶやきに、思わずどきり。

(保坂先生が、私のことをずっと……)

想えば胸がときめいて、甘い記憶が呼び起こされる。昨日の夕方、いよいよ出かける間際になって、先生が私に言ってくれたこと。して、くれたこと――。


帰省することになった保坂先生は、帰りがけに大型スーパーに寄ると、あれこれと大量に食料品を買い込んだ。

「清水さんが生存できるだけの十分な蓄えを冷蔵庫に……」

「先生、ちょっと買いすぎですっ」

その上、私は防犯ブザーまで買い与えられた。

「これならデザインもシンプルだし、大人が持ち歩いていてもおかしくないでしょう」

先生は家に帰ってさっそくパッケージを空けると、まるでアクセサリーのようなシルバーのブザーを私に手渡した。

「あの男――元カレですか、あいつが現れたら躊躇なく押してください」

(先生……)

“あいつ”なんて言い方、ふだんの先生からは考えられない言葉づかいだ。私にひどいことをしようとした男に、保坂先生が腹を立ててくれている。そのことに、胸がきゅんと熱くなる。

「心配していただいてありがとうございます。でも、仕事以外はたぶんずっと外に出ないで引きこもっていると思いますから。安心してください」

「それは賢明だ。本当はレイちゃん……麗華先生に言って、清水さんのシフトを変えてもらって、出ないで済ませられたら安心なのですが」

「そんなことはさせられませんっ」

(ただでさえご迷惑をかけて、お騒がせしているのに)

私が全力で首を横にふるふる振ると、先生はちょっと困ったような、だけどとても優しい表情をした。

「やっぱり」

「え?」

「君はきっとそう言うと思ったから。だから、麗華先生に相談するのはよした」

初めてだった。保坂先生から「君」と言われたのは。

貴志先生はスタッフを「君」だの「君たち」だのと呼ぶ。上司が部下を「ああ、君、君」などと呼ぶ要領で。

でも、保坂先生はそうじゃない。そうじゃないから。

だから、どきどきしてしまう。

(先生、私を心配してくださるのは同僚だから? それだけですか? だって、こんなに優しくされたらもう……)

勘違いしても仕方がない。勘違いなら、したくない……。

胸に募るこの想いはなんだろう? わからない。ううん、わかりたくない。認めるのが……怖いから。