保坂先生はいったい何を考えているのだろう?

「うちの猫になる?」だなんて……やっぱり冗談? 

でも、そういう冗談を言う人だとは思えないし。

いや、でもでも、先生っていろんな意味でわかりにくいのだもの。真面目な顔して真剣に冗談を言っている可能性だって――。

「清水さん」

「えっ、あ、はいっ」

「どうかしましたか、ぼんやりして。食事が冷めてしまいますよ」

「そ、そうですね」

お昼にはまだ少し早い時間だったけれど「混み合うまえに」と、先生と私は“ショッピング”から“グルメ”のエリアに移動して昼食をとっていた。

先生が連れてきてくれたのは爽やかでお洒落なイタリアンのお店で、見晴らし抜群の窓際の席はゆったりと食事を楽しむには持ってこいだった。なのに……。

(落ち着かない、寛げない……)

私は先生の心理がまったく読めず、気が気でなかった。昨夜からの言動や態度といい、さっきの「うちの猫」発言といい。

「清水さん。それはちょっと巻きすぎだと思いますが」

「え? ああっ、これは」

フォークで巻いたパスタがクルクルしすぎて毛糸玉よろしく大きくなっている始末。これはさすがに、私の大口でも入らない……。

(ああもう、私ってばっ。食事に集中しなさいよっ)

「なんか、すみません……」

トホホな気分で、私は困り果ててしゅんと悲しく項垂れた。

「いや、謝ってもらうようなことでは。それより、食べながらですが少し相談をしてもいいだろうか?」

「相談、ですか?」

「はい。清水さんが今後どういったスタイルの猫でいくかという」

「はい?」

(どういったスタイル? 猫でいく???)

ぽかんとする私に向かって、先生は真面目な口調で淡々と続けた。

「先ほど“うちの猫になったらどうか”と、さらっと提案しましたが」

「あ、はいっ」

(そうそう、さらっとしましたよね……)

「反省しています。少し性急過ぎたかと」

「はぁ」

「なので、あれは一旦取り消します」

「え?」

(取り消し……)

なぜだろう、途端になんともいえない淋しさが込み上げた。本気とも冗談ともわからない唐突な提案に困惑していたはずなのに。なのに、こんな気持ち……。

けれども、先生の話はそれで終わりではなかった。

「で、今度は別の提案をさせてください。提案というか、お願いといったほうが正しいのかもしれないが……」

「それは、どういった……?」

「僕が留守の間、清水さんに“お留守番ネコ”になって欲しいのです」

「お留守番ネコ、ですか???」