目覚めるとすぐ、新しい畳の匂いがふわりと鼻をかすめた。

い草って、こんなに落ち着く匂いだったんだ。

そういえば子どもの頃、お祖母ちゃんの家に泊まりに行くと、畳の上にお布団を敷いて一緒に寝ていたっけ。

どこか懐かしくて、心が寛ぐ優しい匂い。

でもここは、お祖母ちゃんの家じゃない。

新品の畳が敷き詰められた清潔なお部屋に、フカフカの高級羽毛布団。

天井にはお洒落な和モダンの照明が吊るされている。

そう、ここは間違いなく私のうちでもない。

私、保坂先生のうちに泊まっちゃったんだ。

だからといって、恋愛小説みたいな色っぽいコトなど何もなかったのだけど……。

昨夜の記憶だって鮮明すぎるほど鮮明に、ちゃーんと残っているし。

私は「起きたら裸!?」なんてわけもなく、うちから持参した古ぼけたパジャマ姿で。

もちろん、保坂先生が隣で寝息を立てているなどということもなく……。

心優しい保坂先生に拾っていただいた私は、快適なお部屋で安全な(?)一夜を過ごしたわけである。

それにしても、昨夜は本当によく眠れた。

昨日はいろんなことがあって怖い思いもしたはずなのに。

初めてお邪魔したおうちで、しかも男の人のうちだというのに。

自分でも驚くほどぐっすりだった。

そりゃあ、いろんな意味で疲れていたせいもあると思う。

でも、理由はきっとそれだけじゃなくて。

助けてくれたのが保坂先生だったから――。

だからこそ、すっかり安心できたんだ。

ん? でもあれかな?

“安全な男”みたいな言い方は、男性に対して失礼かも?

いやいやいやっ、先生を男性として軽んじているなんてことはもちろんなくてっ。

そう、そんなことは絶対に……。

完全に目は覚めていたけれど、私は今一度お布団にくるまった。

そうして、昨夜ここへ来てからのことを、ゆっくりと思い返してみた――。