高校3年生の時、映画を観に行った。お小遣いを貯めて観た映画だ。学生服で窓口に行くと、

「学生証の提示をお願いします」と言われ慌て財布を取り出すが、学生証は入っていなかった。

僕は、
「ありません」と言うと

受付の女性は
「次回からは、提示してくださいね」
と学生料金でチケットを買わせてくれた。
僕は、その映画を観た後に、家に帰って筋トレをした。

次の年に、その映画がDVD化され、僕はDVDの本体を持っていないのに、そのDVDを買った。後からDVDの本体を買って何回も観た。初回特典も大事に保存していたが、だらしない僕は、いつしか特典の品を無くしてしまった。


社会人になって8年目の秋に、どうしても観たい映画が、また、あって僕は当時、お気に入りのマイカーで自宅から一番近い映画館に行った。飛行機が出てくる、その映画を見終わった僕は、帰りの車でパイロットのような気分で運転していた。


その日の夜、僕は真剣にパイロットになる為に、その時の仕事を辞めてしまおうかと考えたが結局、今の仕事を続けた。


そして、現在に至る。
飛行機以外は、全てを手に入れた。仕事も順調そのもので来週にもビッグな商談が、いくつもあり僕の業績も、うなぎのぼりだ。

そんな僕に突然、転機が訪れる。
それは、僕の住む町の獅子祭りが、催された四日後の事だった。

僕は、その日、家に真っ直ぐに帰らずラーメン屋に寄った。
大盛りをペロリとたいらげ、自分の車に乗り込んだ。ラーメン屋の駐車場を出て家に帰ると玄関の前に奇抜な格好をした男性が立っていた。

僕が家に入ろうとすると男性が言った。
「夜分に、すいません!貴方の玄関に鳥の巣がありますよね」
そう言われて彼が指を指す方向を見ると確かに巣があった。続けて男は言う。
「明日、貴方は仕事、休みですよね。あの巣から明け方に鳥が飛び立ちます、おそらく。
その鳥を追いかけて捕まえてください。そして私にくださったら大金を払いましょう」

そう言って男は去って行った。僕は、呆然としていたが、とにかく家に入り、シャワーを浴びて寝た。
次の日、何故か明け方前に目が覚めて顔を洗い、歯を磨いていると玄関から鳥の鳴き声がした。僕は、慌てて着替えて携帯と車のキーを持ち、外に出た。

見たことのない鳥が空を旋回していた。僕は、車に乗り込んだ。すると鳥は北の方に飛んでいく。僕は、車のエンジンをかけて鳥を追った。

前を、ずっと見ていた。人は誰もいない。鳥は、フロントガラスの少し前を、まるでナビをしてくれるように飛んでいく。山が見えてきた。一本道で、ひたすら真っ直ぐに進んだ。下ったり上ったり、そうかと思えば、また下って今度は海が見えてきた。僕は、海岸線を走った。ふいに鳥は、また山の方に進路を変えた。さっきとは別の山。

その山には木が沢山、生えていたが道はあった。しばらく行くと滝があった。その滝を左に見ながら、また真っ直ぐ飛んでいく。

そして、小さな池で鳥は、やっと飛ぶのを止めて池の水を飲み始めた。

僕は、車から降りて鳥の後ろから、そっと近寄り両手で優しく捕まえた。鳥は、抵抗しなかった。

その時、僕の後ろから車が近づいてくる音がした。車は、僕の側に止まり、昨夜、家の玄関にいた男が降りてきた。

手にはアタッシュケースを持っていた。そして僕に言う。
「本当に、ありがとうございます!さぁ、お礼を受け取ってください」

僕は、鳥を彼に差し出し、アタッシュケースを受け取った。中を確認すると見たことのない大金か入っていた。僕は、それをジーっと見ていると、男は自分の車にサッと乗り込み行ってしまった。

僕も車に乗り込み、ナビを自宅にセットして家に帰ることにした。
家には、日が沈む前に着いた。

僕は、アタッシュケースを持ち、家に入ると玄関を施錠し、お風呂に入り、寝た。

次の日の朝、目が覚めると仕事着になり、会社に行った。
昼前に商談があり、多少ムリ難題をつきつけられたが、うまく話がついて、僕は、上機嫌だった。

午後からは、会社が開発した商品のサンプルを吟味して、市場に出す前のチェックを行った。僕が、チェックした後も途方もない数の人がチェックする。

少し残業して、会社の裏口から帰ろうとすると受付嬢の二人を、たまたま見かけた。彼女たちも帰るところだった。

僕が、入社する前と後に各々、受付嬢になり二人とも最近、護身術を習っているらしい。お揃いのスポーツバッグを持っているところを見ると、今から道場に行くのだろう。

僕は、本屋に寄って車の雑誌を買って家の道を急いだ。家に帰ると御飯を炊いて茶碗に盛り佃煮、漬物、キムチで美味しく食べた。その後、ベッドに入り買ってきた雑誌を見ていると、いつの間にか寝ていた。