櫻井さんは、主人と使用人の立場を重んじる人。
普段から私が侑李にフランクに話しているのさえ、快く思っていない所がある。

この家に暮らすようになって、始めの一週間くらいは、何をしても毎日のように櫻井さんのお小言が降って来ていた。
最近は、注意されることも少なくなっていたのにな……。



「櫻井。いつものコーヒー用意してくれ」



お小言受けること、数分。

なかなか部屋に戻らない私たちを不思議に思ったのか、侑李が戻って来た。
有難い。今は侑李が天使か神様に思える。



「はい、ただいま」



鬼の形相が、侑李の方へ振り返った瞬間お釈迦様のような笑みに変わる。
うわ……切り替え、早っ。



「蒼井さま。宜しいですね?分別ある行動をして下さい」



念押しされるように、そう言われれば私の返事はひとつしかない。



「はい……」