~誤解 少女の悪夢~


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「ごめ……さ……い」

かすかに聞こえたその弱々しい声は 少女を眠りから覚ます。

「…め…なさ……」

泣き声と何かを叩く鋭い音。少女は聞いたことのないそれが何かわからなかった。わからないことは 知りたい。知り尽くしたい。好奇心旺盛な幼い少女は ただ「知りたい」ためだけに、判断を間違えてしまったのだろう。

自分の部屋を出ると 光の筋を伸ばしたドアを見つけた。どうやら閉め忘れたようだ。それは 弟の部屋だった。

バシッ

バシッ

バシッ

ドアの前で立ち止まった。
そこで 初めて気づいた。弟の泣き声と鋭い音。幼いながら、何をしているのか部屋の中を見ずとも理解できた。

「痛い……やめ……て

………父さん……」

父さん。いつも優しい父さん。私が初めてのテストで100点をとったとき、お祝いのケーキを買ってくれた父さん。参考書も辞書も買ってくれた父さん。私がトップをとると褒めてくれる父さん。

あの父さんが、あの優しい父さんが、弟にひどいことをしている?

嘘だ……あんなの父さんじゃない。

「お前は…、俺の、期待を…裏切った…。いつになればお前は……花子のように…良い成績を残せる…?お前には取り柄が…、ない…お前にはなにも、ない…」

何度も聞こえる鋭い音のなかで 今までに聞いたことのない鬼の声がした。

ただ、怖かった。

足がすくんで、立てなかった。ドアの向こうを見ることができなかった。弟がひどいことをされているのに、なにもできなかった。

それどころか、ホッとしていた。

私じゃなくて、良かった。


少女は学んだ。弟が犠牲になった代わりに、なにをするのが正しいのか、なにが間違っているのか、両親の理想、自分の行くべき道。弟のおかげで学ぶことができた。

その夜中 少女の中で生まれてしまった怪物は、ドアの隙間から伸びた光と響く音の隣でずっとうずくまっていた。