次いつ会うかもわからない彼のことなんて、どうでもいいはずなのに。そんな顔、させたくなかった。そんなことを思うのは、なんでだろう?傷つけたくはなかったなんて思うのは。
「それ」
彼の視線が私の手元に向いているのに気づいて思考を戻す。
「その傘、どこにあったの?」
「ホームのベンチに……」
「ありがとう!!」
言い終わるよりも早く、傘が私の手から消えて、かわりに彼の満面の笑みが映った。
「これ、僕の。なくしちゃったかと思っていたんだぁ」
そういえば、傘を忘れたなんて言っていたなと今更ながら思い出す。
「今度、お礼するね。ありがとう」
それだけ言い残したかと思うと、彼はどしゃぶりの雨の中に消えていった。
重たいグレーの中に青が映えて。
はじめて、雨がきれいだと思った。