「ぁ、」

 濃灰のホーム
 濃緑のベンチ

 まるで、色が消えてしまったかのように重たい色彩の中で差し色を加えるように青い傘が雨に寄り添っていた。


 なんで、なんてわからないけれど、私にはそれがさみしそうに見えて、気づいたら手のひらに握りしめていた。

 どうすることもないまま駅の階段を上る。タンタンと心地の良いリズムが耳をくすぐって、そして、目を奪われた。



 白い透き通ってしまいそうなほどの肌に栗色の髪が揺れていて。
 「きれい」
 私の声に振り向いた彼は、困ったように笑って
 「きれいで、見惚れてたから。傘、忘れちゃった」
 吸い込まれそうに黒い澄んだ瞳とかちあって、心が揺れた。


 私のこと、言われたのかと思った。
 そんなわけ、ないんだけど。わかっているんだけど。

 まっすぐに、そんなこと、言われたことなんてないから。

 「雨」
 羞恥心を振り払うようにこぼしたことばに彼が首をかしげる。

 「私は、きらい」


 吐き出してすぐに、そのことばを後悔した。
 なんで、そんな、

 ―――傷つけられたみたいな顔


 「だって、ほら。濡れちゃうし」
 自分でも言い訳がましく付け足したセリフに彼はへたくそに顔をゆがめたんだ。
 「そうだね」なんて、思ってもいないくせに。