「さいっあく」

 私――若葉霞(わかば かすみ)は、ため息にことばを乗せると、定期券をねじ込むようにして改札を抜けた。
今しがたホームに降り立ったと見える電車に飛び乗ると制服の雫を手のひらで払った。


 雨の日は、嫌いだ。

 どんなにうまく傘をさしたつもりでいてもどこかしらは濡れてしまうし、なによりも、冷たい。雨の冷たさに濡れると心の奥底まで冷え切ったような心持になる。視界を断捨離する雨のカーテンは妙な孤独感というか、さみしさをかき立ててセンチメンタルな私を創造する。

 わかっている。
 こんな、マイナスなことばかり考えて自己嫌悪に陥るから幸せが逃げて行ってしまうのだろう。
 『笑う門には福来る』
 なんて、わかっている。わかっているけど。

 暗さで鏡になった車窓には、それはそれは、福だって逃げ出してしまいそうな仏頂面の私が映っていて。雨に濡れた頬が涙みたいで。目を、逸らした。


 雨なんか、嫌いだ。
 はやく、はやく、止んでしまえばいいのに。



 『…次は―――』

 無機質な車内アナウンスが下りる駅名を告げて、くたびれたスクールカバンを片手に掴んだ。