憂鬱な午後にはラブロマンスを


社長は最前列の一番端に座っていた。そして、その隣は空席になっていた。
きっと、あの席に私を座らせるつもりなんだ。と、珠子は体が拒絶反応を起こしかけた。

それでも、小田は珠子を俊夫の隣に座るように促した。
しかし、多くの社員の目につくこの場で俊夫の隣の席はあまりにも危険すぎる。

だから、立ちすくんで動けない珠子は足が元いた郁美の方へと向かった。


「珠子、俺のとなりに座れ。俺の直属の部下なら問題ない。」


助け船を出したのは洋介だった。
珠子はまるで地獄から天国に行く気分になっていた。
それほどに今の俊夫の存在は怖く、どれ程に洋介が愛しいのか思い知った。


「洋介、ありがと。」

「この前の病気の介抱に比べたらなんてことないよ。」


珠子はまるで病気で寝込んだ時のお返しの様に言われてしまった。そんな見返りが欲しくて介抱したわけではないのに、と、珠子は俯いた。

こんな胸の痛い思いばかり続くなら、いつしかこの痛みは膨らみ限界がやってくるだろう。
その時、私はいったいどうなるのだろう?と、珠子は自分が恐ろしくなる。


「おいで、珠子。」


洋介に誘われるように珠子は洋介の隣の席へと座った。