憂鬱な午後にはラブロマンスを


「約束通りに車を旅館へ行かせよう。その代りキスするよ。」


俊夫がこれほどまでに情熱的なキスをする人だとは思わなかった。
珠子と食事に出かけても、社長室へ呼び出されても、俊夫は冷めた落ち着きのある人で洋介とは全く違うタイプだと思っていた。

珠子を誘惑しようとか、直ぐにベッドへ誘おうとか、そんな態度はこれまで示さなかった。
珠子にはとても紳士で優しく節度ある人だと思わせていた。

けれど、知れば知る程に洋介も俊夫も同じようなタイプではないかと思い始めた。
穏やかに見えるのはまだ深い関係にないから。
優しそうに見えるのも同じことが言える。

これから先、どんどん深みにはまると洋介と同じことが起きてしまいそうで珠子は怖かった。

あんな辛い思いは二度としたくない。

だから、恋はしたくないし恋愛なんてもっての外。

慣れた一人暮らしが一番いいのだと、自分に言い聞かせてきていたのだから。

そんな生活を壊してまでも俊夫のプロポーズを受けることは出来ないと、珠子の中ではハッキリと自分の気持ちの整理は出来ていた。
だから、相手に気を持たせるような今のような中途半端な態度は止めようと決めた。