憂鬱な午後にはラブロマンスを


バスに乗っていたはずの洋介と郁美は、まだ、トイレ休憩に寄った駐車場に残っていた。他の社員達を乗せたバスはとっくの昔にこの場を離れていたと言うのに。


「俺は珠子を裏切ったことなど一度もない。だけど、当時仕事で大きな商談を抱えて毎日残業の日々だったことで、珠子に疑われるようになったんだ。」

「浮気をですか?」

「ああ、あの当時、俺に言い寄る女子社員がいてね。その社員の罠に嵌ってしまって・・・珠子を傷つけた。」

「本当に裏切ったんですか?」


洋介が本当に裏切らなかったかどうかは郁美には判断できなかったが、珠子の為にも信じたい気持ちは強かった。
だから、ハッキリさせたくてそんな台詞を口に出していた。


「まさか、絶対にそんなことはしていない。俺は珠子以外の女には興味ないんだ。だけど、珠子は信じなかった。毎日の残業と休日出勤したことで更に疑いは大きくなって、極めつけは女子社員が嘘の妊娠話しを持ちだしてそれで珠子とは離婚になった。」


洋介はやりきれない気持ちを珠子の親友にだけは話しておきたかった。
だから、他には誰にも言わないことを条件に珠子との昔話を聞かせた。


「部長、バスは出ちゃいましたよ。どうしますか?」

「旅館までの市営バスが出ているだろう。それに乗っていこう。」

「すいません、私が余計な話をさせたばかりに。」

「いや、いいんだ。珠子の親友の君に聞いて貰えて少しは俺の気も休まったよ。それに、一人でもいい、俺の言い分を信じてくれる人が欲しかったんだ。」


洋介の苦しそうな表情に郁美は何とか珠子と誤解が解ける様にしてやりたくなった。

きっと珠子も洋介への気持ちは残っているはずだからと、郁美はここで一肌脱ぐのが親友ではないかと無い知恵を絞ろうとした。