俊夫は嫌いではない。むしろ、好意さえ感じる。

しかし、燃えるような熱に侵され結婚した洋介の時に比べあまりにも穏やかすぎる俊夫に「yes」の言葉は遠かった。


「ごめんなさい、私はやっぱり」


珠子からの断りの返事を聞きたくない俊夫はそのまま顎を引き寄せ唇を口で封じた。

あまりにも強引な俊夫に珠子は体を引き離そうとしたが、力の差は歴然で押さえ込まれる腕を跳ね除ける力などなかった。


「まって!」

「待ったらどうする? 逃げられないよ。」

「でも、こんなのは違うわ。」


俊夫がこんな強引な態度に出るとは思わなかった。
これまで優しい瞳で見つめられ節度ある態度を取っていた俊夫が、珠子の気持ちを無視するような行動に出るとは思わなかったのだ。


「俺だって男なんだよ。君が元夫と毎日残業しているのを見て黙って居られない。それに、」

「・・・・それに?」

「彼が病気で会社を休んだ時、君が看病していたんだろ?」

「それは、洋介が困っていたからで・・・」


珠子が元夫を甲斐甲斐しく世話をしたのだと俊夫はかなり腹立たしく感じていた。

不機嫌な顔をしている俊夫を見て、誰も世話をする人がいなかったからだと説明しようと思ったが、そこまで俊夫に話をする程の関係ではないからと珠子は口を噤んでしまった。