「それじゃ、その指輪って?! まさか、」
「そうだ。珠子との結婚指輪だよ。本人は未だに気付いていないけど。」
気まずそうにして左手を掲げ指輪を見せると洋介は郁美から写真を取り上げた。
そして、再び写真は財布へと入れられ胸ポケットへと仕舞われる。
「じゃあ、部長の奥さんって珠子だったんだ。なのに、他に奥さんが居るみたいな言い方してたのはどういうことなんですか?」
「正しくは元妻なんだ。俺達は離婚したんだよ。」
「え?」
「離婚したいと言われてね。俺は彼女を手放してはいけなかったのに離婚に応じてしまったんだ。彼女を苦しめたくなくて。」
洋介の顔から笑みが消え切なさそうな表情へとかわる。
今もまだ珠子への感情が残っているのが感じ取れる。
「今、部長は奥さんは居ないんですよね?」
「いないよ。でも、俺には珠子だけだから。」
「じゃあ、どうして結婚しているふりをしてるんですか?」
納得出来ない郁美は洋介に食い付くように聞いた。納得出来る返事が欲しくて。
「妻帯者と言えば虫除けになる。それに、俺にとって妻は珠子以外考えられない。例え離婚していても俺は珠子が妻だと思っている。」
珠子を語る洋介の目が熱いのを郁美は感じ取っていた。
それほどまでに珠子を想う気持ちが強いことに郁美は思わず拳を握った。



