珠子を社長に連れ拐われた気分の洋介は一人バスに戻る気分ではなかった。

珠子一人を社長の所へ行かせたくなかった。しかし、社長が呼び出したのは珠子であり洋介ではない。

社長の肩書きを出されては洋介は珠子を引き止めたくても出来ない。


「部長、珠子は?」

「社長の車で向かうんだろう」

「え? それ、どういう意味なんですか?」

「君は彼女から何も聞かされていないのか?」


郁美は目を細めると洋介から目を逸らした。
そして、バスの方へと歩き出した。そんな郁美の後をついていくように洋介も歩いた。


「珠子とは一緒に居酒屋で良く飲んでたわ。仕事の愚痴とか話してた。」


歩きながら話す郁美の後を遅れないようについて歩く洋介は郁美の話を黙って聞いていた。


「だけど、私生活のことになると話したがらなくて、何を聞いても首を横に振るだけ。辛い過去があったのは想像つくけど私にはどうしようもなくて。」

「・・・」

「部長が来てから珠子の様子が変わったんです。それに、社長との関係も。」


郁美は立ち止まると振り返り洋介の目を見つめた。

珠子を本気で心配している瞳だと郁美の顔を見てそう感じた洋介は郁美にはこれ以上の隠し事は無理だと感じた。