憂鬱な午後にはラブロマンスを


「社長は部長に用があるのかと思っていましたが違ったようですね。」


資料を持ってきたデスク制作課の大谷課長は何気に発言したのだろうが洋介の心中は穏やかではなかった。


「部長も今日は早く帰って奥さんを安心させてはどうですか?」

「妻はいない」

「え? ああ、外出されているんですか? それはお寂しいですね。」


洋介の”妻はいない発言”を課長は勝手に勘違いしていた。

「俺の元妻は今出て行った珠子だ。」と、洋介は声に出して言いそうになった。


洋介は珠子と俊夫の二人が今どんな関係にあるのか知りたいと思った反面知りたくなかった。

だから、洋介は遅くまで会社に残り仕事をしていた。仕事に夢中になれば嫌な事を忘れることが出来ると思ったからだ。


洋介が遅くまで仕事をしている時に、珠子は社長の俊夫の車でディナーへと連れて行ってもらっていた。

初めて俊夫とディナーへ行く珠子はかなり緊張し表情も硬く笑顔も引きつっていた。


「遠藤部長にも困ったものだね。珠子さんをこんな時間まで扱き使うとは。私とデートの日は残業を断ってくれよ。」


俊夫に優しい顔をして言われると珠子は反応に困り黙って俯いてしまう。

珠子の今置かれている状況が更に珠子の反応を鈍らせてしまう。
俊夫所有の高級車の後部座席に俊夫と二人並んで座っているのだが、それも、膝が今にもくっ付きそうな距離だ。

珠子は体を離し座っているものの男の俊夫は女の様にキレイに足を揃えて座ることはしない。どこででも見かける男達の様に膝が開きリラックスした座り方に珠子の膝が今にも触れそうなのだ。