憂鬱な午後にはラブロマンスを


夕方、定時になるとチラホラ社員達は退社していく。

仕事に区切りがつけば定時で退社するようにと洋介は残業を勧めなかった。
業務内容によっては残業続きになる日もある。そんな日の為に早く帰れる時は早めに家路につき家族サービスをして欲しいとのことを社員達に話していた。

独身者の場合はアフター5の楽しみも存分にしてくれと言う部長らしからぬ言葉に珠子は洋介の変わりように驚いていた。


以前は仕事中心で家庭を持ちながらも遅い帰宅の毎日だった。昔の洋介は自ら好んで残業していたような発言だっただけに、今の洋介の考えがこれ程変わったのは一体誰の影響を受けたのか珠子は興味をそそられた。

しかし、そんなのは知る必要はない。左手薬指の人の影響だと考えるのが当然なのだから。

珠子は思い出し笑いをしたかのようにフッと笑みをこぼしていた。


「部長、パソコン画面を見て頂きたいのですがよろしいですか?」

「あ、ああ。ちょっと待ってくれ。」

「分かりました」


珠子の目にはデスクに座る洋介は以前と全く変わらない大人の男性のオーラを纏っている様に見えた。

フェロモン放出し過ぎていると感じながら周囲のデスクに目を向けると、やはり営業部の女子社員達の視線の先には洋介がいた。

あの腕に抱きしめられたらあの時の様な気持ちに戻れるのだろうかと、珠子はふと昔を懐かしんでいた。
しかし、洋介はもう既に他の女のものなのだからそんな事を考えても無駄だと自分に言い聞かせていた。