憂鬱な午後にはラブロマンスを


「赤ペン部分が訂正箇所だ。それに、これらの表は一本にまとめたい。だから、それぞれの合計欄を削除して続けて表を作成してくれ。」

「分かりました。」


洋介は必要以上に語ることはなく事務的に必要最低限の言葉で会話を続けた。

二人の会話の様子を伺っている女子社員らは洋介に釘付けになっていた。
洋介の仕事振りを見ていたいと言うのもあるが、それ以上にどんな表情を見せてくれるのかが気になって仕事が手につかないようだ。

そんな周りの社員達の様子に洋介は頭を痛めていた。

女子社員に現を抜かす社長が社長ならばそこの女子社員達も同じで、男とみると目の色を変えて気を惹こうと必死で仕事など二の次と言わんばかりの様子に見えてしまう。

まだ珍しい存在の洋介の一挙手一投足が気になるのは多少なりとも理解出来るも、あからさまな女子社員の態度に洋介はまだ勤務初日なのに既に嫌気がしていた。


「相川君、来月予定されている企画についてもう少し分かりやすく資料をまとめてくれ。それから、外回りをしている社員を補佐する事務は随分手が止まっているが、ここは仕事がないのかそれとも社員が有り余っているのかどちらなんだ?」

「どちらでもありませんが」

「仕事がなければ他に忙しい部署はあるのだからそちらへ異動して貰っても構わないが。」


洋介の思いがけない言葉に周りの女子社員達は慌ただしい動きに変わった。

自分のデスクを離れていた者は急いで自分のデスクへと戻り、手が止まっていた者は資料に視線を移しパソコン画面へと目を向けては作業を始める。

誰もが部署を異動させられたくないらしく洋介にこれ以上睨まれないようにと真面目に仕事をし始めた。