そんな事を考えながら病室の前まで来た、その時だった。


ノックをする前に中から話し声が聞こえて来たので、俺は手を止めた。


先生と会話をしているのかもしれないと思い、そっと耳を寄せる。


「ごめんね、歩」


沙耶のそんな声にハッと目を見開いた。


「いや、いいんだよ」


すこしくぐもった歩の声が聞こえて来る。


俺は眉間にシワをよせた。


歩はここに1人で来る事はない。


必ず俺と一緒か、両親に連れられてきていたはずだ。


「歩には穏当に感謝してるよ。毎回呼びつけちゃって、ほんとごめんね」


沙耶の申し訳なさそうな声。


沙耶の方から歩を呼び出していたのか。


しかも、今回が初めてではなさそうだ。


俺は知らず知らずの内にコンビニの袋を握りしめる手に力を込めていた。


歯を食いしばり、ドアの向こうにいる歩を睨み付ける。


「いいってば。俺、そろそろ帰るよ。今日も海が来るんだろう?」


「うん。さっき連絡があった」


そんな会話が聞こえてきて、俺は咄嗟に柱に身を隠した。


しばらくすると、歩が病室から出て来る姿が見えた。


沙耶が入口まで出てきて手を振っている。


なんで……?