正直、歩がここねを連れてきた時には驚いた。


雰囲気や仕草は違うけれど、ここねの顔は沙耶にそっくりだったのだ。


歩がここねに惹かれた理由も見るだけで理解できた。


でも……。


俺の心には黒いモヤが立ち込めていた。


歩は今の今までここねを俺に紹介しなかった。


それはなぜか?


疑問の答えが俺の思っている通りだったとすれば、歩を許せるかどうかわからなかった。


それに、歩が沙耶とそっくりなここねを好きになたと言う事は、歩は沙耶の事が好きだと言う事なんじゃないのか?


そんな気持ちになっていた。


思えば、もっと幼い頃の俺と歩は沙耶の取り合いをしていた。


『沙耶ちゃんは僕と結婚するんだ!』


そう言って、2人で本気の喧嘩をしたこともある。


それがいつの間にか歩は沙耶の事を好きだと言わなくなった。


俺はそれを勝手に成長したからだと思っていた。


歩は成長して沙耶への恋心が本物ではなかったのだと理解したのだと。


だけど俺は違った。


沙耶への気持ちが薄れる事なんて1度もなかった。