アリスは今日も泣いていた。
そしてまた、アリスは思う。

『人間なんて、所詮こんなもの。』

もうおまじないみたいになっていた。
 人間は嫌いだ。
信じることが出来ない。
裏切られることの怖さを知っていたから。
 でもやっぱりひとりは辛くて誰かに頼りたくなる。

矛盾してるけれど、すべてアリスが思っていることだった。

『だったら心が無くなればいいのに……』

心があるから苦しいんだ。
心があるから辛いんだ。
だったら心なんて……

 あぁ、今日もまたこの繰り返し。
いつになったら終わるのだろう。

そう思いながら、アリスは眠りについた。


 アリスは通学路を歩いていた。
下を向きながら。
 後ろから足音が聴こえる。
だからアリスは顔を上げた。

「おはよう、アリス!」

「おはよう、ミズキ!」

 アリスは笑って返事をした。

友達といると元気が出る。
アリスは友達が大好きだった。
だからこの何気ない時間が何よりも幸せだった。
 でも、幸せそうな友達をみて悲しくなることもある。
自分だけ違う世界にいるようで……


 昼休み、アリスはいつものように友達と話をしていた。
「でさぁ、またお父さんがさぁ~……」
まりが昨日あったことを話す。
 アリスの頭にみんなの笑い声が響く。

 聞くのが辛かった。

アリスの家は、お父さんがなかなか家に帰ってこない。
どうやら仕事が忙しいらしい。
そんなお父さんの愚痴をお母さんはいつも言っていた。
そして、家の空気はいつも重たかった。
 だから、お父さんとお母さんが仲良しな家族は羨ましくてならない。

「ごめーん!トイレ行ってくる~。」

アリスはそう言うと、ゆっくりと席を立ち教室を離れた。
 教室のドアが閉まると同時に、アリスは地面を蹴りつけ走り出した。

周りの音は何も聞こえない。

校舎の突き当たりを左に曲がり、立ち入り禁止の看板をすり抜けて階段をかけ上がる。
 アリスは、目の前にある重い屋上の扉を開き、足を踏み入れた。

その瞬間アリスの瞳から熱いものが溢れだした。
涙が留まらない。

『みんなが持ってるものを私は持ってない』

アリスは自分がすごく惨めに感じられた。
みんなの幸せそうな顔を見ると哀しみに押し潰されそうになる。
 アリスはとうとう立ってられなくなってその場にしゃがみこんだ。

そんなアリスを心地よい風が優しく包み込んだ。