空って、こんなに青かったんだ。

 スタンドではあきな、優里亜、そして真琴と三人が並んで座っている。一塁側のスタンド、英誠学園側の大応援団の中に他校の制服の女子生徒がふたり、何となく気が引けるような遠慮がちともいえるフゼイ?をかもし出しながら英誠の応援をしているのだった。

もちろんふたりとも英誠が優勝すれば甲子園まで行く気でいるわけだ。まあ、当たり前、だけど。

「もう、なんか、心臓、トマリソウ~」

「ワタシも~」

「あ~やだ~シニソ~だよ~」

そりゃそうだ、自分のカレシ、が決勝戦に出てて、なおかつ負けてて、しかもフンイキ、ヨクナクテ・・・・とくればタイチョウ?も悪くなる。

「マケチャウノカナ~~~」

「やだ優里亜!縁起でもないことイワナイデ!」

ここはあきながオコルとこだった。

「だよね~ゴメン・・・・」

へこんだ優里亜だったけどでも、あきなもそれ以上にヘコンデいたのだ。
初めて点を取られてしかもそれが先制される展開で・・・・こんなのホント、ヤダ。

でもまだ三回だ。この回は打順よく一番の祐弥から、応援団もリキが入る。

「イチバン~ショ~ト~コバヤシッ君~」

ハナニかかった声で祐弥がアナウンスされた。何としても出塁したいとこだ。

しかし、祐弥、そして期待の護と倒れツーアウト。相手に波が行かぬよう、何としてでも三者凡退だけはサケタイ。それがわかってる健大なので粘りに粘った末、八球目をレフト前に痛烈にはじき返した。

チーム二本目のヒットだ。

そしてもちろんのこと、優里亜は卒倒しそうなくらいの喜びようだ。空手部の即席応援団メンバーの岡安が見るからに暑苦しい学ランを着て、バケツの水をこれも即席のパンチパーマの上から被る。

大太鼓担当の柔道部、望月がワレンバカリニ太鼓をオウだする。なんだかもうヤケクソのような応援になってきたような。

ネクストからバッターボックスに向かう途中、拓海は何か、チガウ意味で心配になってきたのだ。

「もしオレタチ、負けたらこいつらにボコボコにされるんじゃ?」

そう思ってスタンドに目をやると、運悪く望月と目が合ってしまった。

「やっべ」

拓海は慌てて目をそらそうとしたけどあとの祭り、もう遅かった。望月は拓海をしっかりと見据えて、巻き舌でこう言った。

「イナモっリ~放り込んだれ~!」

いみじくも、県下では知られたお坊ちゃま校なのだが、やはりマチガッテ入ってきたものが少なくても数名はいるようだった。

そしてその数名が全員、いまここにいるのだ、学ランをまとって。

拓海は大きく背筋をバットで伸ばし、ゆっくりとボックスに入った。拓海の背筋は300キロに近い。そこから繰り出されるバットのヘッドスピードは無論、超高校級だ。

当たればコンコルド級の速さで打球は飛んでいく。その恐ろしさを知ってか、あるいは望月のコワモテと巻き舌に相手投手が恐れおののいたか、こともあろうに拓海は二打席連続で一塁に歩かされてしまった。

今回もきわどいところを攻められて、もちろん最初からフォアーボールありき、の攻め方だ。
ツーアウトながら一塁二塁となり一打同点の場面がやってきた。

五番はチャンスに強い勇士。イイバッターに回ってきた。

相手バッテリーがタイムを要求する。勇士だって強打者、しかもここは前半の山場だ、同点にされるか凌ぐかで、全く展開は違ってくるのだ。だから相手も慎重にならざるを得ない。

キャッチャーが自分の位置に戻って主審に頭を下げた。力で勇士をねじ込もうという配球はないだろう。コーナーを丁寧についてくるはずだ。

相手バッテリーは拓海と同じ右投げ左打ちの勇士の、まずアウトローの真っすぐでカウントを取ってきた。球威もあるが、さすがに制球も一流だ。コントロールミスがほとんどなかった。

二球目はインハイにボール球を。勇士に踏み込ませないためのマエフリ、と読むか、あるいはアウトロー勝負と思わせておいて勇士に踏み込ませる、するとさして厳しくないインコースが打者には手の出せないキビシサ、に感じる。

そちらがネライか?

まだ勇士も決めかねてるようだった。三球目は初球と同じ。しかし精密機械のような制球できちんとストライクを取ってくる。勇士が追い込まれてワンボールツーストライクとなってしまった。

一線級の投手相手に追い込まれるのは、いくら好打者の勇士でも気持ちの良いモノじゃない。しかも、バットを振らせないのだ、コントロールが良いためきわどいところを突かれてバットを出すキッカケ、を作らせないのだ。

そうなるとバッターはなかなか、タイミングを計ることが出来ずに自分のペースに持ち込めないものなのだ。

好球を一発で仕留めるなんて天下のホームラン王、王さんでもない限り至難の業、なのである。

続く四球目はインローにスライダーの曲がりを抑えたカットボール気味のボールが来た。勇士はそれをファールにして何とか逃れた。全く的が絞れない、絞らせない見事なリードだ。

今のことろ、すべての英誠学園のバッターが、相手のペースにハマってしまっている。

それもひとえに、コントロールが良いからこそ出来る、強豪校のエースらしい堂々たるピッチングだった。

捕手頭、に優れる勇士でさえまったく配球が読めていないのだ。とにかくココは、マンベンナク、待つしかない。

しかし次のボールをアウトコースに、ややシュート気味に決められ、勇士は敢え無く弱い当たりのサードゴロに倒れてしまった。

この回も無得点。打者がマンベンナク待たざるを得ない状況に追い込んでしまう相手バッテリー、さすがに甲子園常連校だけあって今までの相手とは一味も二味も違う。

勝手がまったくつかめないのだ、英誠学園は。

大いにモリ下がる英誠学園の大応援団。しかしブチョウ先生は思っていた。とにかくしのぐ、波が来るまで、と。

「オチツケオチツケ。自分が浮足立っては生徒がウワツク。それはダメだ!」

そしてその思いはカントクサンも同じであったのだ。

星也は三回裏をきっちり、三人でシメタ。しかし四回の表、ワンアウトから駿斗、亮太の連続安打が出てランナー一塁二塁と攻め立てたのけれど、星也、祐弥と倒れて無得点のゼロ行進。

すると四回裏、星也がヒット、送りバント、フォアーボールとピンチを招いて六番打者のレフト前ヒットで二点目を失ってしまった。

五回の表、英誠はノーアウトから先頭の護がヒットで出て俄然盛り上がりを見せ、健大がきちんと送ってワンアウト二塁。

期待の拓海はミタビ歩かされてここで勇士は気合のセンター前ヒットを放つも、相手中堅手の矢のような返球で護が本塁憤死。

主審の右手は無情にも高々と上がった。

「アウト~~~~~っ!」

六回表にもヒットが二本出たのだけれど、相手外野守備陣の極端な前進守備の網にかかって本塁に突っ込めず、さらに後続が続かず無得点。

すると気落ちしたのか、星也は六回裏にも三連打を浴びて一点を失いとうとう六回を終了してゼロ対三とかなりやばい展開になってしまっていたのだった。