で、何を言ったかと思えば
「お前たち、いつも紅白戦じゃモチベーションがあがらないだろ?サスガニ?」
「うんうん」
「所詮、仲間内だもんな、コウハクセン」
「はい」
「たまには、というか久しぶりに対外試合、やってみたくないか?」
「やってみたいです。けど、出来るんでしたっけ?(野球部一同)」
「ああ、出来るよ」
「ホント?ですか・・・・」
「ホントホント」
「ウォー」
「よし、じゃ、決まった!」
で、さっさとことは決まってしまい来週の日曜日、英誠学園のグラウンドで練習試合が組まれることとなった。しかしカントクは最後にこう、言い足した。
珍しく怖い顔をして、しかも不気味さをカモシダシナガラ。
「ただし、ハンパなく強いぞ。お前らが太刀打ちできるかな?」
かくして春休みの一日が実に久しぶりの対外試合、となったのであった。
「でも、ホントにデキンノカ?」
「だって、カントクだって嘘は言わないだろ」
「だよな~」
「でも、デキンだったらなんでもっと早くやんなかったんだ?」
「しかも相手校の名前も言わないし」
そんなことが部室でさんざん話題になってる間にもう金曜日が来た。
お決まりの練習最後のミーティングのいちばん最後に、カントクからのお達しがあった。
「いよいよあさってだな、だから今日のうちに伝えておく。日曜日の試合は打者が戦術を決めてサインを出せ。そしてその考えが俺と一致したときはそのままゴーだ。
俺の考えと違うときは俺がサインを出しなおす。これはお前たちがこれまでの練習の中からどれだけ俺の意思や意図をくみ取っていたかを確認するためだ。
もちろんコンセプトや考え方もレギュラー争いのひとつの指標になる」
カントクはそう言うと自分の頭を右指でつついて
「野球はココのスポーツだからな」
と言うとソソクサとグラウンドを出て行ってしまった。
そして土曜日が何事もなく無事に終わり、野球部員としては待望の日曜日がついにやって来た。
試合開始は十時だ、まだ相手は来ていない。
グラウンド周辺には地元のにわかファンや父母たち、それに予想に「オオキクハンシテ」英誠学園の女生徒たちの姿がかなり目立っていた。
「野球部っていつの間にこんなに人気出たんだ?」
勇士などはスカート姿に目ばかり行ってアップのランニングもまったくオロソカになっている。
そうこうしているうちに時計の針は九時に近づき、英誠学園の試合前の練習はカントク自らのノックに入っていた。するとその最中に遥か向こうから何やら大きな騒音とまるで火山が噴火したこのような黒煙を上げながら何物かが近づいて来るではないか。
それはだんだんと姿をあらわにし始めて、見れば大型のマイクロバスではないか。
それがグラウンド目がけて爆進してきたのだ。しかもそのバスはやたらとキタナクてかつフルカッタ。
「なんだ?アリャ?」
ノックを受けていた選手たちが呆然とそちらの方向に視線を集めていると、ノックバットを持っていたカントクはさもマチビトキタルという風な満願の笑顔で
「おお、来たか!」
とノタマワった。
そして
「お~い、全員あがって集合!」
と自ら号令をかけた。
啓太を先頭に選手全員が一塁側ダッグアウト前に整列して円陣を組んだ。カントクからのスタメンの発表と大まかな今日の課題、戦術の説明があってそろそろ終わりかけたとき、やっとぞろぞろと駐車場方面から歩いてくる相手選手たちの姿がチラホラと見え始めたのだ。
「エッ?」
「なあに、アレ?」
「どちらサン?」
「どこの高校?てか、コウコウセイ?なんですか?」
そもそも高校の野球部の練習試合ってものは、まず相手校のグラウンドに入る際はひとりひとりが礼をしながら脱帽、そして一列に整列してキャプテンの号令で再度の脱帽と挨拶である。
これが日本の高校球界のシキタリだ。
なのに今日の相手校?はその大切なシキタリをわきまえていないのか?それとも横着をしているブレイモノ?なのか、なぜか全員すでに脱帽しているのである。
さらに不可解なことに高校球界では絶対的なファッションでもある「ボーズ頭」ではなくて
フツウにありえないヘアースタイルの選手がいるのだ。
そのヘアースタイルとはちょっと後ろ髪が長いとか、耳にかかっているとか、そんなハンパでナマヤサシイもんでは到底ナイノダ。
もう明らかに禁止?明らかに高野連から厳重注意どころか厳重カミナリを落とされること間違いなしのカタチをしていたのだ。
そう、よくコワい方々に圧倒的な人気のヘアースタイル、ナンと言えばよいか???
ん~ん、この際だから手っ取り早くイッテシマオウ。
「パンチパーマ」と!
あの怖いものなしのめっぽう気の強い勇士が口をアングリとしたままカタマッテいる。ましてふつうの選手はすでに顔色を失って卒倒寸前の者もいるではないか。
それもそのはず、その高校球界では絶対にありえないはずのヘアースタイルの選手?たちは実にひとりふたりではなくて、ぱっと見た限りでも十人近くはいるのだ。
その風体と迫力?たるやすでに完全に英誠学園野球部をクッテシマッテいるのだ。
まあ、逆に言えば英誠学園野球部一同がクワレテシマッタのだ。
さらに言うならそれ以外にもロンゲ長髪にパーフェクトボーズ、なかにはモヒカンともうまるで映画の撮影のようにバラエティーに富んでいる。
驚くのもトウゼンダ。
こういう場合は余計なことは言わずにただただ黙っているのがいちばんなんだろう、きっと。みんなの気持ちが一致ようで誰も口にチャックをかけてしゃべろうなどという暴挙に出るものはひとりもイナカッタ。
啓太たちが佇んでいると相手チームの面々はいつの間にか全員が三塁側ダッグアウト前に整列している。
その姿は、いわゆる高校野球の試合前の整列ではとうていなくて、何かコワい世界の方々の親分さんをお迎えするときのイチドウセイレツ、に似ていた、というかソノママ?であった。
そのコワい方々の中でも最も怖そうな顔をした人の号令で皆々様は「オッス」と大声で挨拶し、こともあろうに全員でこちらに、そう、一塁側ダッグアウトに向かって歩いき始めたのだ。
すでに英誠学園の選手の中には気を失っているものもいるようである。でもそんなことなんてまるで気にする風もなく、どんどんと一団は歩を詰めてきてとうとうカントクの前まで来てしまった。これにはさすがの勇士も、さらに根性の座っている健大までもが二三歩あとずさりをしてナスガママ状態になっているじゃ~アリマセンカ。
なのにカントクサンは一向に動じる風もなく、それどころかニコニコとして立ち上がると
「おうヤマちゃん、今日はワルイネ!」
などと言って、右手を差し出したのである。
さらに驚いたことにその最も怖い顔をした、カントクサンから「ヤマちゃん」と呼ばれた巨漢のパーマ頭の人は我が英誠学園野球部のカントクに頭を下げて
「今日はよろしくお願いしまスッ!」
と大声で挨拶しカントクの差し出した右手を両の手で大事そうに包み返したのだ。
これには部員全員がまさにハトが豆鉄砲を食らったようなってしまった。
「お前ら、どうした?ちゃんと挨拶しなきゃ」
とカントクに言われたのだが、啓太もすぐにはキョウフから?たちなおれずに口をアングリしたままだ、いちばんさきに我に返った健大が啓太の尻をつつき、やっと啓太は
「よろしくお願いします」
の号令をかけることが出来た。
英誠野球部一同はそれに続いてやっとのこと、全員で挨拶の声をそろえることができたのだ。
「よし、じゃヤマちゃん、こっちはもう終わったよ。グラウンド使っていいから準備しなよ」
カントクはヤマちゃんという人にそう言うとヤマちゃんとやらとその仲間たちはその風貌とは似ても似つかない笑顔でグラウンドに散っていった。
その後ろ姿はいかにも野球がしたくてしたくてたまらないという風である。
「よーし、みんな座れ。すわって良く観察しとけよ」
カントクにそう言われて英誠ナインはやっとこさ冷静を取り戻して、ベンチ入りメンバー全員がダッグアウトのベンチに散りじりになって相手の分析に入ることができた。
ここでちょっと説明するとご存知の通り、野球における試合前の観察ポイントは相手投手の球速や球種、大きな特徴、それに守備陣の肩の強さや脚力、そして連係プレーの良し悪し、などだ。投手に関しては大体の場合、先発するピッチャーがブルペンに入り試合前の「肩慣らし」をする。
その時に注意深く球種やスピード、コントロールに長けているかどうか、を見るのだ。あるいはリリーフ専門の投手がいる場合も同様だ。
だから英誠学園のように野手がリリーフを任されているチーム、つまりのこと拓海のことなのだけど、そういう場合は事前情報がなければわからないことが多いのだ。
次に野手の評価はシートノックを見て。肩の強い弱いをスローイングから判断する。
特に外野手の肩は三塁ベースコーチにとって、最重要ポイントだ。スコアリングポジションにランナーがいる場合、三塁ベースを蹴らすのか止めるのかの大事な判断材料になるからだ。
またタッチアップの時、ランナーの判断を決めたり補助することもあるからだ。それと守備から大まかだけど脚力、つまり足が速いか遅いかのチェックもする。
だって試合前の練習にはふつう、ベースランニングはないから。
それと連携プレーのうまくいっているルートと時間のかかるルートの選別。例えばライトもファーストも共に強肩の場合、ライト方面のヒットではセカンドランナーは三塁で止める、という前提にもなりえる。
だからレフト、サードが逆に共に肩が弱い時にはレフトヒット前ではランナーを突っ込ませることが多くなる。
さらに左中間、右中間ヒットの場合にはセカンド、ショートも連携にかかわってくるのでチェックが必要だ。
だから三塁ベースコーチの判断は試合の勝敗に直結することもある、だから三塁ベースコーチはどのチームでも監督の信頼の厚い選手が選ばれるのだふつうなんだ。
もちろん、試合前や試合中にでも特に大切な場面ではベンチ、つまり監督の考えをコーチに伝えておく。
「多少ムリでも行かせろ、とか100%セーフでなければストップ」
とかね。とっても大切なシゴト、なの、三塁コーチは。
でも困ったことに打撃に関しては試合前に情報を得ることはなかなか難しいんだ。
なぜって、試合前の打撃練習ってせいぜいトスバッティングだけだから。
そこからは長打力やミート力のあるなし、バントが上手か下手なんてほとんどまるでワカラナイ。
だから試合が始まって打順から大きくハンダンスルンダ。
だいたいの場合、一番、二番打者はミートがうまく足が速いことが多い、そういう選手を監督は上位に持ってくるんだ。
そして三番、四番、五番打者はチャンスに強く長打力があるのが特徴、さらにミートにも優れた打者もいるからその場合は最重要注意、最強マークが必要になってくる。
それと三人の中ではいちばん足の速い選手を三番に使うことが多いんだ。それは足の遅い選手を三番に使うとランナーがたまった時に、マエガツカエテシマウ、から。
なので四番、五番打者は決して俊足じゃないことがフツウ。あくまでひとつのガイネントシテ、だけど。
普通のチームだとここまでに打撃の得意な選手を並べるのが通常。例外は投手に負担をかけたくない、あるいは打撃陣に余裕があるチームは打撃にも優れた投手をあえて下位打線に置くこともあるから要注意なんだ。
だからそのほかのことやホントウノこと、は試合が始まってからじゃないとワカラナイ、のでキャッチャーがスタンスや構え、バットの握りの長短や見逃し方などもろもろの材料から判断して決めるんだよ、攻め方を。
なのでキャッチャーは頭が悪いとデキナイ、ふつうは。少なくとも「野球頭」は必要なんだ、ゼッタイニ。
「お前たち、いつも紅白戦じゃモチベーションがあがらないだろ?サスガニ?」
「うんうん」
「所詮、仲間内だもんな、コウハクセン」
「はい」
「たまには、というか久しぶりに対外試合、やってみたくないか?」
「やってみたいです。けど、出来るんでしたっけ?(野球部一同)」
「ああ、出来るよ」
「ホント?ですか・・・・」
「ホントホント」
「ウォー」
「よし、じゃ、決まった!」
で、さっさとことは決まってしまい来週の日曜日、英誠学園のグラウンドで練習試合が組まれることとなった。しかしカントクは最後にこう、言い足した。
珍しく怖い顔をして、しかも不気味さをカモシダシナガラ。
「ただし、ハンパなく強いぞ。お前らが太刀打ちできるかな?」
かくして春休みの一日が実に久しぶりの対外試合、となったのであった。
「でも、ホントにデキンノカ?」
「だって、カントクだって嘘は言わないだろ」
「だよな~」
「でも、デキンだったらなんでもっと早くやんなかったんだ?」
「しかも相手校の名前も言わないし」
そんなことが部室でさんざん話題になってる間にもう金曜日が来た。
お決まりの練習最後のミーティングのいちばん最後に、カントクからのお達しがあった。
「いよいよあさってだな、だから今日のうちに伝えておく。日曜日の試合は打者が戦術を決めてサインを出せ。そしてその考えが俺と一致したときはそのままゴーだ。
俺の考えと違うときは俺がサインを出しなおす。これはお前たちがこれまでの練習の中からどれだけ俺の意思や意図をくみ取っていたかを確認するためだ。
もちろんコンセプトや考え方もレギュラー争いのひとつの指標になる」
カントクはそう言うと自分の頭を右指でつついて
「野球はココのスポーツだからな」
と言うとソソクサとグラウンドを出て行ってしまった。
そして土曜日が何事もなく無事に終わり、野球部員としては待望の日曜日がついにやって来た。
試合開始は十時だ、まだ相手は来ていない。
グラウンド周辺には地元のにわかファンや父母たち、それに予想に「オオキクハンシテ」英誠学園の女生徒たちの姿がかなり目立っていた。
「野球部っていつの間にこんなに人気出たんだ?」
勇士などはスカート姿に目ばかり行ってアップのランニングもまったくオロソカになっている。
そうこうしているうちに時計の針は九時に近づき、英誠学園の試合前の練習はカントク自らのノックに入っていた。するとその最中に遥か向こうから何やら大きな騒音とまるで火山が噴火したこのような黒煙を上げながら何物かが近づいて来るではないか。
それはだんだんと姿をあらわにし始めて、見れば大型のマイクロバスではないか。
それがグラウンド目がけて爆進してきたのだ。しかもそのバスはやたらとキタナクてかつフルカッタ。
「なんだ?アリャ?」
ノックを受けていた選手たちが呆然とそちらの方向に視線を集めていると、ノックバットを持っていたカントクはさもマチビトキタルという風な満願の笑顔で
「おお、来たか!」
とノタマワった。
そして
「お~い、全員あがって集合!」
と自ら号令をかけた。
啓太を先頭に選手全員が一塁側ダッグアウト前に整列して円陣を組んだ。カントクからのスタメンの発表と大まかな今日の課題、戦術の説明があってそろそろ終わりかけたとき、やっとぞろぞろと駐車場方面から歩いてくる相手選手たちの姿がチラホラと見え始めたのだ。
「エッ?」
「なあに、アレ?」
「どちらサン?」
「どこの高校?てか、コウコウセイ?なんですか?」
そもそも高校の野球部の練習試合ってものは、まず相手校のグラウンドに入る際はひとりひとりが礼をしながら脱帽、そして一列に整列してキャプテンの号令で再度の脱帽と挨拶である。
これが日本の高校球界のシキタリだ。
なのに今日の相手校?はその大切なシキタリをわきまえていないのか?それとも横着をしているブレイモノ?なのか、なぜか全員すでに脱帽しているのである。
さらに不可解なことに高校球界では絶対的なファッションでもある「ボーズ頭」ではなくて
フツウにありえないヘアースタイルの選手がいるのだ。
そのヘアースタイルとはちょっと後ろ髪が長いとか、耳にかかっているとか、そんなハンパでナマヤサシイもんでは到底ナイノダ。
もう明らかに禁止?明らかに高野連から厳重注意どころか厳重カミナリを落とされること間違いなしのカタチをしていたのだ。
そう、よくコワい方々に圧倒的な人気のヘアースタイル、ナンと言えばよいか???
ん~ん、この際だから手っ取り早くイッテシマオウ。
「パンチパーマ」と!
あの怖いものなしのめっぽう気の強い勇士が口をアングリとしたままカタマッテいる。ましてふつうの選手はすでに顔色を失って卒倒寸前の者もいるではないか。
それもそのはず、その高校球界では絶対にありえないはずのヘアースタイルの選手?たちは実にひとりふたりではなくて、ぱっと見た限りでも十人近くはいるのだ。
その風体と迫力?たるやすでに完全に英誠学園野球部をクッテシマッテいるのだ。
まあ、逆に言えば英誠学園野球部一同がクワレテシマッタのだ。
さらに言うならそれ以外にもロンゲ長髪にパーフェクトボーズ、なかにはモヒカンともうまるで映画の撮影のようにバラエティーに富んでいる。
驚くのもトウゼンダ。
こういう場合は余計なことは言わずにただただ黙っているのがいちばんなんだろう、きっと。みんなの気持ちが一致ようで誰も口にチャックをかけてしゃべろうなどという暴挙に出るものはひとりもイナカッタ。
啓太たちが佇んでいると相手チームの面々はいつの間にか全員が三塁側ダッグアウト前に整列している。
その姿は、いわゆる高校野球の試合前の整列ではとうていなくて、何かコワい世界の方々の親分さんをお迎えするときのイチドウセイレツ、に似ていた、というかソノママ?であった。
そのコワい方々の中でも最も怖そうな顔をした人の号令で皆々様は「オッス」と大声で挨拶し、こともあろうに全員でこちらに、そう、一塁側ダッグアウトに向かって歩いき始めたのだ。
すでに英誠学園の選手の中には気を失っているものもいるようである。でもそんなことなんてまるで気にする風もなく、どんどんと一団は歩を詰めてきてとうとうカントクの前まで来てしまった。これにはさすがの勇士も、さらに根性の座っている健大までもが二三歩あとずさりをしてナスガママ状態になっているじゃ~アリマセンカ。
なのにカントクサンは一向に動じる風もなく、それどころかニコニコとして立ち上がると
「おうヤマちゃん、今日はワルイネ!」
などと言って、右手を差し出したのである。
さらに驚いたことにその最も怖い顔をした、カントクサンから「ヤマちゃん」と呼ばれた巨漢のパーマ頭の人は我が英誠学園野球部のカントクに頭を下げて
「今日はよろしくお願いしまスッ!」
と大声で挨拶しカントクの差し出した右手を両の手で大事そうに包み返したのだ。
これには部員全員がまさにハトが豆鉄砲を食らったようなってしまった。
「お前ら、どうした?ちゃんと挨拶しなきゃ」
とカントクに言われたのだが、啓太もすぐにはキョウフから?たちなおれずに口をアングリしたままだ、いちばんさきに我に返った健大が啓太の尻をつつき、やっと啓太は
「よろしくお願いします」
の号令をかけることが出来た。
英誠野球部一同はそれに続いてやっとのこと、全員で挨拶の声をそろえることができたのだ。
「よし、じゃヤマちゃん、こっちはもう終わったよ。グラウンド使っていいから準備しなよ」
カントクはヤマちゃんという人にそう言うとヤマちゃんとやらとその仲間たちはその風貌とは似ても似つかない笑顔でグラウンドに散っていった。
その後ろ姿はいかにも野球がしたくてしたくてたまらないという風である。
「よーし、みんな座れ。すわって良く観察しとけよ」
カントクにそう言われて英誠ナインはやっとこさ冷静を取り戻して、ベンチ入りメンバー全員がダッグアウトのベンチに散りじりになって相手の分析に入ることができた。
ここでちょっと説明するとご存知の通り、野球における試合前の観察ポイントは相手投手の球速や球種、大きな特徴、それに守備陣の肩の強さや脚力、そして連係プレーの良し悪し、などだ。投手に関しては大体の場合、先発するピッチャーがブルペンに入り試合前の「肩慣らし」をする。
その時に注意深く球種やスピード、コントロールに長けているかどうか、を見るのだ。あるいはリリーフ専門の投手がいる場合も同様だ。
だから英誠学園のように野手がリリーフを任されているチーム、つまりのこと拓海のことなのだけど、そういう場合は事前情報がなければわからないことが多いのだ。
次に野手の評価はシートノックを見て。肩の強い弱いをスローイングから判断する。
特に外野手の肩は三塁ベースコーチにとって、最重要ポイントだ。スコアリングポジションにランナーがいる場合、三塁ベースを蹴らすのか止めるのかの大事な判断材料になるからだ。
またタッチアップの時、ランナーの判断を決めたり補助することもあるからだ。それと守備から大まかだけど脚力、つまり足が速いか遅いかのチェックもする。
だって試合前の練習にはふつう、ベースランニングはないから。
それと連携プレーのうまくいっているルートと時間のかかるルートの選別。例えばライトもファーストも共に強肩の場合、ライト方面のヒットではセカンドランナーは三塁で止める、という前提にもなりえる。
だからレフト、サードが逆に共に肩が弱い時にはレフトヒット前ではランナーを突っ込ませることが多くなる。
さらに左中間、右中間ヒットの場合にはセカンド、ショートも連携にかかわってくるのでチェックが必要だ。
だから三塁ベースコーチの判断は試合の勝敗に直結することもある、だから三塁ベースコーチはどのチームでも監督の信頼の厚い選手が選ばれるのだふつうなんだ。
もちろん、試合前や試合中にでも特に大切な場面ではベンチ、つまり監督の考えをコーチに伝えておく。
「多少ムリでも行かせろ、とか100%セーフでなければストップ」
とかね。とっても大切なシゴト、なの、三塁コーチは。
でも困ったことに打撃に関しては試合前に情報を得ることはなかなか難しいんだ。
なぜって、試合前の打撃練習ってせいぜいトスバッティングだけだから。
そこからは長打力やミート力のあるなし、バントが上手か下手なんてほとんどまるでワカラナイ。
だから試合が始まって打順から大きくハンダンスルンダ。
だいたいの場合、一番、二番打者はミートがうまく足が速いことが多い、そういう選手を監督は上位に持ってくるんだ。
そして三番、四番、五番打者はチャンスに強く長打力があるのが特徴、さらにミートにも優れた打者もいるからその場合は最重要注意、最強マークが必要になってくる。
それと三人の中ではいちばん足の速い選手を三番に使うことが多いんだ。それは足の遅い選手を三番に使うとランナーがたまった時に、マエガツカエテシマウ、から。
なので四番、五番打者は決して俊足じゃないことがフツウ。あくまでひとつのガイネントシテ、だけど。
普通のチームだとここまでに打撃の得意な選手を並べるのが通常。例外は投手に負担をかけたくない、あるいは打撃陣に余裕があるチームは打撃にも優れた投手をあえて下位打線に置くこともあるから要注意なんだ。
だからそのほかのことやホントウノこと、は試合が始まってからじゃないとワカラナイ、のでキャッチャーがスタンスや構え、バットの握りの長短や見逃し方などもろもろの材料から判断して決めるんだよ、攻め方を。
なのでキャッチャーは頭が悪いとデキナイ、ふつうは。少なくとも「野球頭」は必要なんだ、ゼッタイニ。

