高校生ともなれば「クリスマス」と「バレンタイン」は「特別行事」だ。

それは坊主頭の色気もナニモあったものではないはずの野球部員でも決して例外ではなく、
もうすぐ十二月の二十五日となったこの時期はさすがにその話題でいっぱいだった。

なんといっても「硬派」で鳴らす健大でさえここ最近はなぜか「オチツキ」がないのだ。
健大の場合、今までに何人かの女子生徒からアタックは受けているようなのだが本人にはあまりその気がないらしい。みんな「コトワッテ」しまうのだ。

このあたり、勇士に言わせれば「あいつは頭がおかしい」となる。残念ながら勇士には「そのようなこと」

つまり「アイテカラお付き合いをモトメラレル」ということは今までなかったらしいのだ。

まあそれはさておき、今年のクリスマスイブはどういうわけか?土曜日。

なので新監督とブチョウ先生が話し合って、練習はその日は「ヤスミ」となったらしい。
そんな話がマコトシヤカニちらほらと聞こえ始めてきたので部員たちも落ち着かない。

まあ大人にしてみればあまりシボッて問題を起こされるよりも多少の「ガス抜き」をさせたほうが賢明、と考えているのかも知れなかったが。

そんなこともあってかなくてか、拓海はつい最近まったく思いもよらない人物から思いもよらない言葉を聞いたのであった。

「オレも彼女が欲しくなってきた」

そう、拓海が信じられないと思ったのもいた仕方がない、これ「硬派」で鳴らす健大が言ったのだから。まあ勇士なら当たり前すぎることなんだけれど。

「そうなんだ」と聞くともなく聞き流すしかなかった拓海なのだけれど、こともあろうかあの健大の言葉だから嘘やへちまではないはず。

そう考えて話すともなく今度はあきなにそのことを話してみた、圭介のこととヒックルメテ。

すると不思議なことに
「じゃあ、わたしの友達にカワイイ子がいるので『平山君に紹介しようよ』」
ということになってしまった。

若者だけにことは実にトントンと進む、オソロシイくらいにだ。
ましてや彼らが今いちばん興味のある「恋愛」にからむことだ。いやおうにでも動きは素早くなる。

その「カワイイ子」というのはあきなの中学時代の同級生らしく、さらに驚いたことにその子は圭介がストーカー行為をした、もとい、ひとめぼれした女子高生と同じ学校だったのだ。

ということは「一石二鳥」あきなの友人の「カワイイ子」を健大に紹介し、さらにその「カワイイ子」に間に入ってもらって圭介が好きになった子との間を「トリモッテもらう」という誰もが考えそうなアイデアを、やはり拓海とあきなのふたりも思いついてしまったわけだ。

しかし果たしてそんなことが目論見通りにうまく行くのか?って、行くわけないだろ?
ところが驚いたことにこれが「うまくいってしまった」のだった。

あきなの友人のカワイイ子は名を長谷川優里亜といって「紹介したい男の子がいる」って
あきなが言ったら
「わかった」
とフタツヘンジでOKした。別にカルイわけじゃない、あきなを信用しているのだ。

そして
「転校生の子にも紹介したい男の子がいる、うまくトリモッテ」
と頼むとこれも
「わかった」
とフタツヘンジ。

別にこれもカルイわけじゃない、あきなとの友情に厚いのだ。
なので数日後にはさっそく優里亜からあきな宛にメールがあって、そこには随分と長い文章が綴られていたのだけれど、まあ要約すれば
「万事OK」
と書かれてあった。もちろん今風に絵文字付きではある。

するとそれをさっそく拓海経由で圭介に伝えると当然のごとく「泣いて喜んだ」のだった。
その泣いて喜んだ相手の名は藤原真琴といって同じ二年生、部活は軟式テニス部ということらしい。ふた月ほど前に大阪の堺市から父親の転勤に伴って引っ越してきたらしい。

まあここまでは啓太の同級生情報でわかっていたことではあるのだが。

「っていうことはあの子、大阪弁なのかなあ?」

これが拓海からことのあらましを聞いた時の圭介の最初の「感想」だった。
ホント、どこまでもトボケテイル。

「まあ、駅弁だろうが何弁だろうがそんなことはどうでもいいよ。とにかくガンバレ!」
とそばで聞いていた健大は圭介の肩をたたいていつの間にか励す側にマワっている。

「いったいナニヲ、ドウ?がんばるのだろうか」

これがそばで聞いていた拓海の正直な「感想」だった。

だけど兎にも角にも青春真っただ中のこともあろうに高二のクリスマスイブの夜を男ひとり、自宅の部屋で悶々としていなければならない惨状からは免れるわけだ。想像するだけでも悲惨な情景だ。

健大も圭介も早速のところ、あきなにお礼のアイサツをしに行き、そしてその日から現金なふたりは素振りの回数が五十回増えたのだった。

そしてそんなこんなで、坊主頭三人衆に待ちに待ったクリスマスイブの当日がやってきた。健大、圭介のふたりは昨日の晩は拓海の祖父母の家に泊まって、朝一番で三人衆は待ち合わせの駅へと向かった。

そんなに朝早く起きてどこへ行くのかって?拓海たち六人は相談の結果、ほぼ即決で
ディズニーランドへ行くこととなったのである。

オサダマリと言えば元も子もなくなってしまうのでこの際はデートの王道と言っておこう。

何はともあれそのためには当然のこと、始発電車に乗る必要があり眠い目をこすりながら、と思いきや拓海以外のふたりは布団にもぐり込んだまでは良かったのだけれど結局ほぼ朝まで一睡も出来なかったにもかかわらず、まったく眠気を感じさすこともなく起床したのだった。

拓海だけはヨユウ?とでもいうのか初デートではないので「イツモ通り」ふつうに
「寝て起きた」

待ち合わせの駅に着くと相手の三人はまだ来ていない。しかしこういう時にこそそれぞれの
性格、が出るものだ。

圭介は
「本当に来るのかな~」
とすでに心配顔になっている。

そんな圭介に健大はいつもの通り冷たく言い放つ。
「来るだろ、当然。少なくとも唐沢は」

それを聞いた拓海は笑っていたが圭介はますます心配になって
「なんだよ、それ?」
とほぼ泣き顔に近くなっている。

「どうすんだよ、来なかったら?」

「そん時はオレとお前でスペースマウンテンだな」

「だったらオレ、帰るよ~」

「なんだよ、せっかくそんなにめかし込んで来たのにか?」

圭介は朝、寝癖で乱れに乱れ海苔がご飯にしみついた食べ残しのおにぎりのようになった
坊主頭を必死にドライヤーで整えて、さらに全身に香水をお坊さんが滝に打たれる
荒行のごとくフリカケて来たのだった。

「お前、つけすぎだって」
とふたりに言われても
「いいんだよ、これくらいで」
と圭介は平然としていたのだ。

しまいには拓海と健大に
「クサイカラチカヨルナ」
とまで言われたがここまでツッパッテきた。

しかしここに来て
「ちょっと、匂いすぎかな?かえってイヤミかな?」
と心配になってきたようだ。

「ああ。デートなれしてないと思われるだろうな」

健大はそんなことをいいながら笑ってる。

そんな時、そろそろ上り電車が来るとアナウンスがあった。三人は押し黙り近づいてくる電車を凝視した。

圭介の緊張はクライマックスと化しほとんどイースター島のモアイ像のようになっている。

拓海とすればさっき健大が言った
「少なくとも唐沢は」
の言葉が笑えない冗談のように思えてきた。

「まったくありえない話」
ではないような気がしてきたわけだ、拓海には。

いよいよ電車が止まりドアーが開いた。場所柄とこの早朝だ、降りる人はあまりいない、乗る人は多少、いるのだが。

ホームの中央あたりにいた三人は前後のみならずなぜか左右も確認した。もうパニクっているとしか思えない行動だ。

「乗ってないのかな~」
と圭介が落胆の様子ありありでひとり言の様に言った次の瞬間
「アッ、イタッ!」
と健大が叫んだ。

健大が指さしたホーム前方のほうを見ればあきなを含めた女の子三人が電車から降りてホームに立ってあたりをキョロキョロとしているではないか。

拓海たちはピストルの音に反応した運動会の百メートル競走のようにいっせいにホーム前方目指して飛び出した。女子高生三人組に向かって。

やがて向こうも拓海たちに気がついて総勢六人は無事に対面を果たし、しばらく停車していたこの電車に飛び乗ったのだった。

そして六人の高校生たちはディズニーランドまでの長旅を、まったくあきることもなく話し続けた。そう、それはまるで初対面とは思えないようにだ。

優里亜と真琴はともにスカシタリ、気取ったところもない素敵な女子高生だったから健大や圭介ともすぐに打ち解けて拓海もあきなもまるで気を遣う、ということをしなくてもよかったのだ。

そんなことでディズニーランドに着いた頃にはもうすっかり「旧知の仲」のようになっていた。

六人はすっかり陽が落ちるまでタップリとアトラクションを楽しんで、サイコーのイブを過ごすことができた。

帰りの電車の中ではいつの間にか、というか何となくというか六人でかたまってはいるのだけどカップルごとに話すようになっていた。それぞれタショウノキョリ、を置いて。

あまり遅くならないほうがいい、ふたりのためにも、と言っていたあきなの意見を尊重して十時には女の子たちが家に着ける様に拓海たちは帰ってきたのだ。

「じゃあね」

口々にそういって拓海たちはそれぞれ家路について行った。
英誠野球部は明日は練習だ。拓海が家についてしばらくすると圭介からLineがきた。

「オレ、甲子園、行かなくちゃ!」
と。

そしてまたしばらくすると今度は健大からもきた。

「オレも行くわ」

拓海はそれを読んで思わず微笑んでしまう。あいつらしいぜ、って。
だってじつに短い文章の中に、強い決心と意志を感じたから。

拓海は拓海で
「そりゃそうだ。行かなくちゃだな」
と、おくればせながらこれまた暢気に思う。

そしてそんなこんなで拓海たちの高校二年生としてのクレハクレテイッタ。