「……んー。そうだな」
すっと目を細めた彼は。
「……俺にも、わかんない」
少しだけ、寂しそうに見えた。
「…………………」
思わず何かを言いかけたとき。
「初ー!!!」
亜美の声が聞こえて、反射的に黒州くんを押し返した。
すると、彼はすんなりと離してくれた。
ちらりと横目で見た彼の顔は、さっきの寂し気なものではなく、いつもの余裕を滲ませたものだった。
「あのね、今日帰りにみんなで遊ばないかーって葉山くんが!初今日大丈夫?」
私の前に駆け寄ってきた亜美が楽しそうに笑う。
「……あ、うん…私は大丈夫…」
しどろもどろに返すけれど、亜美は気にしていないように頷いた。
「よかった!黒州くんは?」
「んー………大丈夫じゃない?」
「?……ま、いいや。じゃあ葉山くんに伝えてくるね!」
黒州くんのハッキリしない返答に不思議そうにしながらも、亜美は元来た道を戻っていった。
「…………意気地無し」
「へ?」
唐突に聞こえた黒州くんの声に振り返ると、彼は呆れたような顔をしていた。
「誠治…あいつ、ほんとは2人で行きたかったんだよ。放課後デートっての?」
ポケットに手を突っ込み、黒州くんは亜美とは逆方向に歩き出す。
「けど、まだ誘いづらかったんだろうな。だから四人ならーっておもったんじゃないの」
「………デート……」
「………………ま、俺も人の事言えない、か」
「?」
黒州くんは少し行ったところで、私が着いてきていないのに気が付き戻ってきた。
そしてまた手を握って歩き出した。
「………………あの、なんの話…てか、手…」
手は先ほどの恋人繋ではなく、親が小さい子供の手を引く時のような握り方で。
……………ガキってこと?
子供扱いされているようで。
さっきまでの彼と違っていて戸惑ってしまう。
「そのうち話すよ。たぶん」
……………たぶん、って。
それ話してくれないやつじゃないの。
…………ていうか、手。
………もう、わけわかんない。
黒州くんという人間は、私には理解できないみたいだ。



