着替えを済ませ、リビングへ行けば、顔を洗った山野君がローテーブルに腰を掛けていた。


「このまま仕事行きますね。家に帰ってる時間ないんで。」
「え・・・あ・・・うん・・・」
「何ですか?その反応。自分で誘っておきながら、それですか?」
「そういう訳じゃないけど、一緒には行けないから、先出てね。」
「一緒に行けば良いじゃないですか?」
「無理よ!そんなの。」


声を上げれば、山野君はお手上げと肩を竦めた。


「最後に飲んだカクテル忘れちゃったんですか?」
「最後・・・?」


最後の方はほんとに何をどれくらい飲んで、何を口に運んだかすらわからない。


「メキシカン。美味しい、美味しいって言って飲んでましたよ、石田さん。」


【メキシカン】のカクテル言葉は【噂になりたい】


「私は記憶がないんだから、そのカクテルは無効ね。」


そう言いながら、山野君の座るローテーブルに朝食を並べる。


「こんなものしか出来ないけど。」


こんな展開になるとは思わず、冷蔵庫の中にあった食材で簡単に作る。


「意外だなぁ。石田さん、自炊するんだ。」
「バカにしてる?」
「違いますよ。綺麗なイメージのある石田さんなんで、家事のイメージがないだけです。」


山野君が私の部屋で朝食を食べてる。
思いも寄らない光景だ。
お互い黙々と食べ進めながら、私は以前から気になっていたことを口にした。


「あのさ、私、前から思ってたんだけど、初めて話した日もそうだよね。私のこと、綺麗っていうの止めてくれない?」
「ほんとのことを言ってるだけですよ。ミス皇華が何言ってんですか?」
「え?どうして?どうしてそのこと知ってるの?」


山野君はその私の問いに答えず、立ち上がり鞄を手にした。


「ごちそうさま。俺、先行きます。また連絡しますね。」
「ちょっ!!山野君!」


肝心なところを、いつも、はぐらかされる。