玄関を開けた途端、ぱあっと眩しいくらい人懐っこい笑顔が視界いっぱいに入ってきた。

「ご、、朝からどうしたの??」

郷太は口元をにかりと引き上げた。とびきりの笑顔を作っているようだった。
「ふふ、そんなに嬉しかった?」

だけどあたしは予想もしなかった訪問なだけに心配せずにはいられなかった。
「一花に何かあったの?」
「ふー。あのね、、

きみのことを心配してるのは一花だけじゃないんだよ?
僕だって心配してるんだから。」

郷太の口がへの字に曲がった。
「あ、、ごめん。」

「いいよ。顔、見に来ただけだから。昨日は襲われたりしたからさ、大丈夫だったかなと思って。」

「ぇ、でも、いいの?こんな、ちょっと、人目につかない?」
あたしは声をひそめ、玄関の中に郷太を引き入れようとした。
「狙われてるかもしれないんでしょ?あたし、、」
「大丈夫、すぐ行くから。

はい、これね♡」
「きゃ!」

ぱちん、とウィンクするとあたしの腕にひんやりしたものを押し付け、郷太は閉じかけた玄関のドアを開けた。

眩しい朝日に駆け出す前に、郷太が振り返った。

まるで何かのワンシーンみたいに綺麗に。

「なんか、甘い香りがするね。」

その動きがあんまりに絵になっていて、思わずぽかん、としてしまいそうになった。


「、、ぇ、っあ、ケーキを焼いてて、」

郷太の顔がまたぱあっと輝いた。
「くれるの?」

うん、と頷く。
「やったぁ!」
明るい髪の毛が朝日の中に踊りだしていた。
ガッツポーズが見えた。

「そんなに騒いだら、、ぁっ、みんなにだからねー、、!」
はしゃぐ郷太の背中にあたしは慌てて声を掛けた。
振り向いた郷太が唇に指を立ててあたしを制止した。

『じ、自分だって!』
あたしは言いたいのをぐっと堪え、口元を塞いだ。



「みんなにって、一花も僕も、おんなじだよね?」


「え?何??」
郷太が何かつぶやいたようだったけど、その声は小さくてよく聞こえなかった。


七花が耳に手を当てるしぐさをした。
郷太は人懐っこい笑みをもう一度浮かべると、くるりと背を向け、そのまま風のように駆け出した。


「なんでもないのかな?」
あたしは腕の中の牛乳瓶が冷たくて、すぐに家に入ることにした。