秀星。今までの人生で一番大好きになった人。深く関わりたいと思った唯一の人。
高校時代、秀星のピアノは音楽科の生徒の中でも秀逸を超えて天才レベルと言えるものだった。聴く人の心を一瞬で虜にしてしまう、繊細で優しくて、それでいて心の奥底まで届くしなやかな強い音。
他にない、彼にしか出せない音。
映画を観て泣いたのは久しぶりだった。ストーリーもよかったけど、それを引き立たせていたのは間違いなくあのピアノだった。
初めて聴くのに懐かしい。その音色に涙が止まらなかった。
本当はもっと余韻に浸っていたかった。映画の後悟と食事をしたけど、その時間すら邪魔に感じるくらいに……。
知輝との電話を終えアパートに着いても、映画で聴いたピアノの音が脳内に流れ続けていた。
「あのピアノ、秀星が……」
ベッドに寝そべり、ヒリヒリ痛む心を感じた。
秀星は夢をつかんだ。
世界のピアノコンクールに参加。16歳で最年少優勝を果たし、20歳の頃には音大で学ぶかたわら海外へ渡って演奏家として活躍していたらしい。
らしい、というのは、高校卒業後のことは直接本人に聞いたのではなく知輝や他の同級生から伝え聞いた話だからだ。
現在、秀星との関わりは一切ない。連絡先すら知らない。


