「普段通り…」


そう言われても普段の顔が分からない。

うーん…と考えていると、「それそれ!その表情!」と指差された。


「やっと、いつもの仙道さんになったね」


ニコッと笑われる。


「う…うん……」


ちょっと複雑かも。


「今日、何年の試験があるの?」


「一年の現国と二年の古文」


「いきなり2つか。大変ね」


「音無さんは?」


「私は明日。三年生があるのみ」


「リスニングと筆記なんて、そっちの方が大変じゃない?課題も作らないといけないし、CDも用意がいるし…」


音無さんは英語教諭。

全学年の英会話の授業を担当している。


「まぁね。でも、自分の勉強にもなるから楽しいわよ」


いつも前向きな音無さんらしい言葉。

羨ましいもんだ…と、軽くため息を吐いた。



「…ねぇ、仙道さん、それって……」


驚いた表情で指先を伸ばす。

差し示された指の根元に、ピンク色の小石が光っている。


「先週はそんなのしてなかったわよね。じゃあ、それ、もしかしてエンゲージリング!?」



まずい。

もう気づかれた。



「う…うん……」


声が上ずる。



「ひょっとして、あの左官工の人から貰ったの?」


確かめるように顔を覗き込まれた。


「え…ええ、まあ……」


音無さんは高島の顔を知っている。

誕生日より少し前、写メってきて…と頼まれたから。