止まらない吐き気を抑える様に繋がられた点滴。

その袋を恨めしく眺めたまま暮らし続けて何ヶ月になるだろう。


体力は次第に無くなっていく。

顔色は日に日に悪くなり、すっかり食欲も衰えた。

笑うことにも力を使い、時には声すらも出せなくなる。



(神様……僕はもう直ぐ天に召されるのですか……?)



蜜に親不孝をさせた代償がこれなんてあんまりです。

僕はこんな不幸を望んでなどいなかった。



(藤を父親のいない子供にしたくない……)


かつての蜜の父親のように愛情を注いできた娘。

親に背かせた僕が言える様な言葉でないことを十分承知はしているがーー


やはり生きて娘の成長を見届けてやりたい。



(お願いです……助けて下さい……)


御百度参りをしてでも、キリスト像に向かってでも祈り続けたい。

元気で生き長らえるなら、仏門に入って念仏を唱え続けてでも構わないから頼む。



(生かせて下さい………僕を家族の元に帰らせて……)


願えども願えども、病状は進む一方。

確実に悪くなり、別れの時は近づく。




「お父さん、いつ退院できるの?」


保育園に預けられていた娘が帰り際に寄り、無邪気に聞いてきた。


「カツラ、お父さんに抱っこされたい!」


母親と同じ様に父である僕に愛され甘やかされ続けてきた娘。



「藤……」


ぎゅっと小さな肩を抱き締めた。

この子を決して泣かせてはいけない。


「大丈夫だよ。お父さんはもう直ぐ退院できるからね」


どんな形になっても、いずれ我が家に戻る。

そして永遠に、蜜とこの子を見守るのだ。