(……っすん)


心の中で泣こう。

やはり私は魅力のない女なんだ。



パタン…とドアを閉めて廊下を歩く。

高島の部屋の隣が私の部屋。

押入れを挟んだ反対側のドアを開けて、名残惜しそうに中へ入った。




「なんでよ……」


悔し紛れに呟く。


「人が折角その気になったのに……」


触れられた唇を指で触った。

引っ張られるように持って行かれた気持ちは、そう簡単には忘れられない。

今夜は何があっても決して断らないつもりでいたのに、キスをした本人からはあっさりと手を離された。



「ずっと待ってたように思ってたのに……」


思いきり触れたい…と言われたことがある。

あの時、高島はどういう意味でそう言ったのか。


「普通に肩を抱く…とかじゃないと思ったんだけどな……」


腹ペコアオムシだった頃のように力が出せない訳じゃない。

隠している狼を表に出そうと思えば出せる筈だ。



「やっぱり36で処女だというのがネックなのかな……」


呟きながら落ち込む。

36なのに、まだ処女。

キスだって今日が初めてだ。


「天然記念物よね……」


悲しくなるくらい男が怖かった。

20代半ばのショッキングな出来事は、重い石のように私の身を固くした。


昼間、その元凶に出会った。

幸せそうな顔をして自分の子供を大事そうに抱いていた。