山縣 蜜とデートを重ねて今日で5度目。

毎回彼女は遅刻してくる。



「……今日もやっぱり遅刻か」


時計と睨めっこするのが慣れになりつつある。

待たされた方が会えた時の喜びは大きいけれど。




「保さーーん!」


元気なハニーの声が響き渡った。

真っ直ぐと僕の元を目指して急いで駆け寄って来る。



「お待たせー」


ハーハー、と息を切らせながら胸の中に飛び込んだ。

このストレートな愛情表現には未だもって慣れない。



「今日の遅刻の理由は何?」


毎度のことだが聞くようにしている。


「父様に…」


ギクリと冷や汗が出る。


「お買い物を頼まれてしまって……」


ほぅ…っと聞こえないくらいの息を吐く。


「そうか。で?その買い物はもう済んだ?」


「うん、近所の酒屋さんで日本酒を買ってきて欲しいと頼まれただけなの」


「遅れてごめんなさい」とやっと謝る。


「いいよ。僕と会う時は邪魔されるって分かってるし」


蜜の父親は僕のことが気に入らない。

この間初めて挨拶に伺った日に思いきり嫌味を言われた。




『左官をしている!?そんな土木関係の仕事をしてる奴なんか、蜜の相手として認めん!』


国鉄マンだと聞いてたけれど、態度はお堅い役所の連中と同じだ。

娘の恋人は自分と同じ国鉄員か役所の人間でなければならないと思っている。


『父様、保さんは左官工でも腕はピカイチなのよ』