目の前に座っている男はきょとんとして、それでも何かを急に思い出したかの様な顔つきになり……



「あっ……!」


「あの……ご注文は如何致しましょう?」


タイミングを見計らうかのような女店員の声が遮った。

ちらっと彼のことを視界の端に入れ、直ぐに女店員の方へ向き直る。


「お店の一番人気だという『チーズケーキセット』を二つお願いします。彼にはブレンドコーヒーを、私にはレモンティーをお願い」


「畏まりました。暫くお待ち下さいませ」


フレアスカートの裾を翻して女店員は優雅に席を離れていく。

高級喫茶店に勤める女性は仕草までが一級品だなと思いつつその背中を見送った。



ほっ…と息を一つ吐いて室内を見渡す。


耳の奥に届いてくる微かなバイオリン曲の音色は嫌味でもなく落ち着いてる。

会話をし合うカップルの声は大きくもなく、まるで囁きのようにも聞こえる。

どのテーブルの人達も楽しそうで、微笑み合いながらケーキや飲み物を味わっていた。


そんな中で無言のまま向かい合わせる私とバンビの彼。

緊張感を抱いたままの私達の関係は、端から見るとどんな風に思えるのだろう。



「……いい加減、その真ん丸な目をするのは止めにしない?」


ぽかんとした表情をしたままでいるバンビに目を向けた。


「あ……」


慌てて視線を泳がせる。

こうまで露骨に(違う女性を待ってたんだ…)と思わせられると、どんどん嫌な気持ちが広がっていく。