『予約席』と書かれたプレートを外し、温かいおしぼりを持ってくる。



「望」


テーブルにお冷グラスを置きながら息子の名前を呼んだ。


「何だよ」


呼ばれた方は愛想もくそもない。

そんな息子に呆れながらお母さんは問いかけ続けた。


「仕事の方はどう?体の調子はいい?」


「どっちも順調。気にすんな」


不機嫌そうに答える。


「そうは言っても親だから気にするわ」


当然過ぎるお母さんの言葉に頷く。

高島は素っ気ない。

10年ぶりに会うのだから親の体調を気にするのが本当だろうに。


「仙道さんとはどういった関係?教えてくれる?」


それすらも言わずに帰省したの!?



ぎょっとしながら高島の顔を見た。

目線を横に滑らせた男は、仏頂面を変えずに言った。



「……結婚しようと思ってる」


いきなりそんな言い方はやめて。



「結婚!?」


ほら、呆れられているし。


「結婚って……本気で!?」


思いきり疑われている。



「嘘でも冗談でもねぇ。本気だ」


ぶすけて言うのもやめてよ。


「仙道さんは!?望でいいの!?」


振り向いて聞き直された。


「お父さんやお母さんは了解してらっしゃる?」


素朴な疑問に戸惑う。

狼狽えながらも事情を話した。


「いえ、あの…私には父も母もいなくて。2人とも、既に他界しておりますから……」