「……………やぁ、ようこそ」
色気のある低音が静かな廊下に響き渡る。
「俺はルス。…君は?」
言葉とともにゆっくりと差し出された彼の手を握る。
「………………ミズキです」
「……、……………そうか、よろしく」
彼はそう言って微笑んだけれど。
彼が返事をするまでの間が、少しだけ気になった。
「……あの、何か……?」
遠慮がちに問いかけると、彼はにこりと笑い、その笑顔には違和感などなかった。
「いや、珍しい名前だと思ったから」
……珍しい、か。
確かにそうかもしれないけれど……。
「ルス、という名前の方が珍しいのでは?」
ルス、不思議な響きのある名前。
…………あれ?
私、彼の名前…………………。
「確かにな」
クスクスと笑った彼は、私に恭しくお辞儀をすると。
「行こうか。みんな待っている」
そう言って、私の手をゆるく引いた。
瞬間、どくんと心臓がなった。
まるで、何かに気がついたように。
そして、それを拒否するように。
足を止めた私に気がついた3人は、何も言わずじっと私を見つめていた。
1度目を閉じて、突然訪れた違和感に耐える。
何も考えずに、その違和感から離れるように。
自分のことかもしれない。
思いだそうとしているのかもしれない。
けれど、思い出すのが怖いというか。
まだ、知りたくないと、心が泣いているのかもしれない。
ゆっくり目を開けると、目の前に紫色の瞳があった。
「……ミズキちゃん?」
目尻を垂らし、心配そうに私を覗き込む紫色の瞳。
それに映る自分の顔が青ざめていることに気が付き、慌てて笑を作る。
「大丈夫です。………ごめんなさい」
私のその言葉に、ルスさんは、いつの間にか私の手から離れていた手を、私の額に当てた。
「……具合でも悪いのか?…熱はないようだが」
ゆっくりと離れていくその手を見つめ、心臓の痛みを振り返る。
けれど、さっき確かに違和感があったはずのそこには何もなく。
「大丈夫です」
私は、そう言って笑うしかできなかった。



