さよならを告げるまで





 薫は力がなかった。だから、人は寄らない。

 儀式で姿を見せる異世界人には力がある。彼女にはなくて、美桜と翔にはあるという事実は美桜にしっくりきた。似合わないと思ったドレスも、美桜にあわせて作られた戦闘服も、美桜のもの。
 この平和、特別は全部全部―――。



「そういや、あんた日本だとどこに住んでたんだ?」

「私は、神奈川だけど。翔は」

「俺は東京。冴えない高校生。クソつまんねーやつばっかだったな」



 こうして異世界人としてここにいるが、と美桜は自分がいた日本でのことを振り返る。どこにでもいる女子高生であったし、翔もまた大量生産される高校生であったはずだ。クラスに一人くらいいる、勘違いしている男子だろう。
 高校生としての美桜なら、ただのクラスメイトでしかなかった。


 自分は特別でもなんでもない。
 それは美桜自身が理解している。


 だからこそ、異世界だなんていう場所での特別な存在になれたというのが、自分の存在を確かなものとしている気がする。
 


「毎日受験のためだけの勉強だし、キモいやつは底辺でもがいてる。いい顔してやることはやってる馬鹿女もいるし」



 ―――だが。

 美桜は口にはしなかったが、誰かを見てほっとすることはあった。嫌いな人もいたし、いなくなればいいとさえ願った。無視したこともある。いじめだとわかっていて、参加したことも。

 けど、そんなのは自分だけじゃない。他だってやってる。
 やらなくてはならなかったんだ、といいわけを用意する。


 女は怖い。平気で嫌いな人にでも笑えるし、自分より劣っている人を用意していたりする。


 美桜の場合は薫だった。


 異世界にやってきたのは、美桜と翔だけではない。もうひとり、薫の存在がある。だが彼女には力がない。だから、美桜はほっとしている。
 ああ、薫じゃなくてよかった。
 それは酷いことだろうか。