心の中で呼んで入谷くんのほうを向くと、すでに目の前に彼の姿が。
「いり、やく……」
名前を呼んで見上げると、少しだけ微笑む。
そのおかげでさっきまでの不安な気持ちがスッと消えていく。
「お客さん、困ります」
「何だよお前」
「注文してただけだろ」
入谷くんに対して文句を言い出す。
けど、顔にずっと笑顔を張り付けている。
「では、代わりにご注文を伺わせてもらいます」
「アリスちゃんがいいんだけど」
「ご注文は?」
「聞いてんのかよ」
「ご注文は?」
入谷くんが私のワンピースを掴んでいる人にぐっと近づいて、低い声を出した。



