憑代の柩

「すまんな。
 衛の我儘に付き合わせて」

「まあ、私に責任があるのも事実ですから」

 そんなことを殊勝に言う娘に、

「ないだろ」
と告げる。

「なんでも訴訟の国なら、君が賠償請求してもいいくらいだ。

 お前の婚約者を殺したい人間のお陰で、自分が怪我したので、補償してくれってね」

「いや、あの~」

 娘は、そう思うのなら、何故勝手に私の顔を変えましたか、という顔をしていた。

「俺はあの我儘な従兄弟に弱くてな。

 ああ見えて、淋しい奴だから」

 衛は身内さえ、信用できないでいる。

「わかります」
と彼女は言った。

「だからこそ、婚約者のあづささんに執着してたんじゃないですか?

 他に信頼できるものが居ないから。

 さっきから、私と視線を合わせようとしない。

 あづささんと同じ、この顔が厭なんでしょうね

 ああ、でも、と、ふと気づいたように彼女は付け足す。

「貴方が居ますよね、衛さんには」

 それを聞き、ふっと笑った。

「だから――

 俺のことも信用してないんだろうよ」

 立ち上がり、窓を開ける。

 新緑の季節らしいいい風が入ってきた。

 振り返ると、彼女はこちらを見、少し考えるような仕草をしていた。

 風に柔らかな髪を揺らしながらするその動きに、なんとなく和み、少しだけ笑ってしまう。