憑代の柩

「行き当たりばったりだったのが、たまたまうまい具合に言ったのかもしれませんよ。

 だって、私が記憶喪失にならなければ、私が花を誰に頼まれたか、しゃべってたでしょ」

「だから、最初から、お前ごと吹き飛ばすつもりだったんだろ」

「吹き飛んでないじゃないですか。

 やっぱり、行き当たりばったりなんですよ」

 衛が押されている、と思ったのだが、結局、彼女は衛に誤摩化され、犯人探しに協力することになっていた。

 衛が高校生のとき、彼の父親が亡くなった。

 それ以後、後見人になると押し掛けるツワモノ揃いの親族を振り払い、一族を取り仕切った衛だ。

 彼女もまた、今、犯人に手を貸した人間として、仕分けられ、仕切られていた。

 今、また、衛は息をひとつ吸い、言い切った。

「お前のせいだ。
 なにもかも。

 だから、僕に協力しろ。

 お前は今日から、佐野あづさだ。

 お前は事故に遭ったが、助かったんだ。

 明日から大学に戻れ。

 あづさとして生活し、お前を狙ってくる犯人を引きずり出すんだ!」

 頭は回るが人の良い娘は、小さく肩をすくめながらも、

「……わかりましたよ」
と呟いていた。