「ところで、他国の者がどうとか言ってたけど、人間が襲ってきたりするのか?」

軽い気持ちで質問をしたとたんゾイズとガルトは目の色を変え心底脅えていた、元人間の俺からすればお前らの方が充分恐ろしいわ!

「ソエル殿はなんとも笑えない冗談を軽々仰る方ですなぁ……」
「お前が記憶喪失なのは知っているが、我もそのような冗談を聞いたのは初めてだぞ……」

この反応を見る限り本当に人間を恐れていることは分かったがこいつらが人間に負けるようには見えない、俺のスキル《神々の知恵》は魔法、技の性能を完全再現出来るものと言うことは先ほどの戦いで十分に分かった。
ファイヤは初級魔法だか、完全再現されたものは中級魔法よりも威力が高いらしい、それをスキルと盾だけで完全に防ぐガルトは相当の実力者だろう
ゾイズの場合は基礎魔法を全て習得しているそこそこの魔法使いの上に潜伏能力が非常に高い、そんな二人が兵士ならともかく、人間事態を恐れるとは………、まぁ、今は気にしないでおこう

「じゃあ、他国って言うのは一体何処を指しているんだ?」
「ソエル殿は名前以外の全てを忘れなされたのですか?……」
「お前……本当に何も覚えておらんのだな……」

飽きれながらも二人は魔界の現状を語ってくれた、数百年前、当時魔界を管理していた魔王サタンは人間界から来た勇者と名乗る者に襲われ殺されたそうだ。
魔王サタンは次期魔王を決めていなかった事もあり、幹部達は暴走した、挙げ句魔界は五つの国に別れ現在も戦争は続いているとのこと

「あんたらの所属している国は確か魔王国だったはずだが、今は誰が管理しているんだ?魔王は死んだんだろ」
「……現在国を治めておられるのは、魔王サタン様の娘であるイザベラ様が治めております、才能もあり非常に素晴らしい方なのですが、なにぶん荒事は苦手のようで……」
「イザベラ様は戦う必要なんざ無いだろ、我がいる限りあの方には指一本触れさせやしない」
「ゲルト、貴方は何故そうも浅はかなのですか、我々が納得しても他国の王や国民が納得しないでしょう」

う……と弱気にゲルトが声を出すとそのまま黙った、まぁ、魔王に必要なのは知恵よりも力だろうしな、人の国だと力とは能力を指すが魔界の国は違う、少なくとも魔族としての実力を指すのだろう

「おっと、見えてきましたよ、あれが魔王国サターンです」

壁に囲まれ中に入れる門は一つのみ、ミスリル製の壁はかなりの強度を持っており、聖魔耐性まで付いている上にそこそこの分厚さもあるようだ、そこに結界が複数重ねられているのをみるとまるで要塞のようにさえ思えるが、俺の注意は門兵へと向いた。
こいつがただ者でない事は素人の俺でも直ぐに分かった、漆黒の鎧にまるで生きているようにさえ見える剣は俺のスキルでさえ、レシピ不明と出ている

「あ、ゾイズ君にガルト君、お帰り、無事で何よりだよ、所でそちらの変わった服装の方は?」

ツッコミを受けるまでは気が付かなかったが、上半身をさらけ出し、下半身は袴の様なものを履いているのだから、変わっていると言われても仕方がない

「こちらは魔人のソエル殿です、森で倒れ記憶を失っており、名前程度しか思い出せないそうです」
「ソエルと申します、よろしくお願いします」

魔族の作法などが、分からないのでここは人間の頃の作法として、手を差し出した。

「なるほどね、君が気配の正体って訳だね、私の名前はデュラン、ここの門兵をしている者だ」

そう言って、俺が差し出した手をデュランは握ってきた、どうやら間違った対応ではないようだ。

「ところでソエル君、外から来た者が中に入るには、入国料として10銀貨必要なんだが……」
「これで足りますかね?」

そう言って、俺は持っていた袋から銀貨を10枚渡した。

「うん、ちょうど10枚だね、ガルト君達みたいに国民表があれば、出入りは無料になるから、国民になるつもりなら作ってもらった方がいいよ」

そう言って爽やかに笑ったように見えなくもない鎧の男デュランは門を開けてくれた。

「ようこそ、魔王国サターンへ」

なんとも安直な名前に一瞬耳を疑ったが、本当にサターンと言う名前のようだ……


・・・・・


[魔王国サターン]

先代魔王サタンが直々に統治下に置いていた国として、最も栄えた場所であったが、魔王サタンの死により、ここ数百年の間は技術が進化しておらず、中世イギリスの様な建物が並んでいた、領土自体はかなりの広さだが、全他国に面してるいるため、侵入者に常に注意を払わなければならない、因みに主な産業は農業のようだ。

「要するに、俺を戦力として加えたいからここに招いたと?」
「騙すつもりはなかったのですが、何卒我が国の兵士になってはくれまいか………」
「魔人種であるソエルが仲間となるならば、他国の連中もそう簡単には攻めてこれまい、それに我が国の兵士となれば、それなりの地位は約束されるだろう」

確かに悪い話ではないけど、あまりにもリスクが大きすぎる上に、恐らくだが、たいした地位はもらえないだろうが、しかし、魔族の国なので当然冒険者やらギルドやらの制度は無い、元人間ではあるが、高校生の俺にはこれといった独自の技術もない………ここは交渉してみるしかないようだ。

「言いたいことは分かった、だがこれは直ぐ決められる事でもないからな」
「なるほど、つまり時間が欲しいと言う訳ですね」
「衣食住を得られるのに何を悩む必要があるのかは分からんが、貴様の事だから我は口だしせんぞ」
「ではソエル殿、3日後に城に来てください、それまでに準備をしておきますので、よい返事を期待しております、もちろん宿はこちらで手配します」

そう言ってゾイズは宿を紹介してくれた、もちろん宿代はゾイズ持ちだ、彼らも急に外に出たこともあり、やり残した仕事をするため宿屋の店主に金を渡すと慌て帰って行った。

「ところで宿屋の旦那、酒場と換金所と図書館がどこにあるか教えてくれないか?」

俺も三日後の契約のために準備に取りかかることにした。