何もない森の中を歩くこと数時間、前世の俺ならば間違いなく息を荒げながら歩いているだろう、元々体力はないほうであるはずだが、これも転生した事による種族補正だろうか、全くと言っていい程に疲れを感じない。

「しかし、この森……どんだけ広いんだよ」

ずいぶん歩いたが、景色が変わる気配が無いため途方に暮れていた。

「仕方ない、ここは一旦近くで一番高い木にでも登って回りを見渡すか」

近くにある木の中でも一番大きいものを見つけ近づいて行くと、突然目の前の木から火の玉が飛んできた、ソエルは反射的に地を蹴り、その攻撃を避けた。

《魔法》ファイヤを習得したよ~♪やったね!

どうやら、火の玉を見たお陰でスキル《神々の知恵》が発動したようだ、俺は早速覚えた《魔法》ファイヤをその木に向かって撃ち込むことにした。

「ファイヤ!」

そう叫ぶと同時に俺の手からは先ほどの火の玉の倍以上の大きさの火の玉が木に向かい飛んでいった、その瞬間先ほどまで合ったはずの木は消え鎧に身を包んだ、盾を持った豚男が現れた、恐らくだがゲームとかでよくみるオークだろう。

「《盾技》シールドバイト!」

《盾技》シールドバイトを習得したよ~♪やったね!

オークが叫んだ瞬間、先ほどの盾が魔力を纏い、俺のファイヤは打ち消された、武術の類だろうか、俺の頭の中にはまたもロキのどや顔が浮かんだ。

「貴様は何者だ、見たところ魔人種のようだが、所属している国は何処だ!」

オークは声を荒げながら聞いてきた、何を言っているかは分からないが、とりあえずいきなり襲いかかって来たくせに偉そうなソイツに俺はイラッと来ていた。

「相手に名前を聞く前に、まずは自分が名乗るべきじゃあないか?」

小バカにしたように俺はヘラっと笑うとオークは怒ったのか何かを喋りながら突進してきた。

「我が名はガルト、種族はオーク種、誇り高き魔王国の戦士である、余程我を怒らせたいらしいな、いいだろういざ尋常に勝負!」

冗談も通じないようだ、まぁ、会話が成立しないから当然かそう思い突進してきたオークをひょっと避けた。

《体技》突進を習得したよ~♪やったね!

段々、イライラしてきた俺は早速覚えた技である突進を使った、突進を避けられたガルトはどうやら木にぶつかり尻餅を付いていたようだ、起き上がろうとするガルトの背中に魔力を纏った俺の体がぶつかる、ガルトの体に衝撃が走った、不幸にも兜を先ほど木にぶつかった時に落としていたガルトはそのまま頭を木にぶつけ気絶した。

「この木……どれだけ硬いんだよ」

木の強度に驚いているとまたもや、背後から火の玉が飛んできた、どうやら伏兵がいたらしい俺はその火の玉をモロに受けた。

「グフ……って、あれ?全然痛くないな」

種族スキルの《聖魔法耐性》の影響だろうか、全くと言っていいほどダメージが無い、かなり強力のようだ、耐性と言うよりは無効化と言うべきだな、後ろをみるといかにも魔法使いと言わんばかりのローブを纏い、杖を持ったリザードマンがいた。

「やはりだめか」

そう言うとリザードマンは杖を地面に置き手をあげた。

「降参します、俺の名前はゾイズ見ての通りリザードマンです、俺の魔法じゃ貴殿を倒せない事はよく分かりました。さぁ、俺を殺すか、貴殿の国に連行し奴隷にでもしてください、死ぬ覚悟は出来ています、ただガルトだけは助けて頂きたい。」
「あのさぁ、何なんだよお前らは、いきなり攻撃を仕掛けといて勝手に話を進めるわ、いきなり死ぬ覚悟は出来ているとか、訳の分からんことを言うわ何がしたいんだよ」
「!?、貴殿は他国から来た侵略者ではないのですか!?」
「?、何訳の分からないこと言ってんの?」

俺がそう言うとリザードマンはボケッとした顔でこちらを見るなり土下座をした。

「すいませんでしたぁぁぁぁぁーーー~……」

・・・・・

ゾイズとガルトの話を聞いた所、突然強力な気配を感じた二人は他国の者が侵入してきたのだと思い慌て撃退に来たそうだ、現場に駆けつけた所、魔人(ソエル)が居たので彼らは必死にこの事態を国に報告、そして国近づいて来るその魔人を幻惑魔法を発生する装置により、入国を阻止していたらしいが、案の定装置に近づいてきた魔人の注意を反らし国を守るため、死を覚悟した上で戦い挑んだとのこと、酷い言われようだ。

「俺が言うのもなんだけど……、ここに居るのは生まれたてほやほやの魔人だぜ?」
「ハハハ、御冗談をソエル殿はどう見ても熟練の魔法使いにしか見えませんよ、あのファイヤを見たときは正直嫉妬してしまうほど完璧なものでした。」

あれは早急ゾイズの技を見て覚えただけなんだが……

「そうだとも、我の突進をいとも容易く避け、見事なまでの突進を食らった時には魂が抜ける感覚がしたぞ」

それも早急ガルトの技を見て覚えただけの技だぞ、必死にツッコミを入れたいが我慢した、下手にスキルの話をするのは異世界では危険だと判断したからだ、ここは話を合わせるとしようどのみち情報が必要だ。この世界で生きていくんだから、まずは拠点を決める必要もあるしな。

「実は俺は記憶喪失なんだ、だからゾイズの魔法やガルトの技を見たときは突然思い出しただけなんだ、そこでお願いしたいんだけど、俺を君達の国に連れて行ってくれないか?」
「「!?」」
「もちろんだとも、いや、是非来てくれ、我は歓迎するぞ!」
「是非もない、ソエル殿ならば、何の問題もございませんぞ!」

どうやら歓迎してくれるようだ、喜ばれ方が少し怪しいが、歓迎してくれるならお言葉に甘えよう。

こうして、ソエルはゾイズ、ガルトと共に森を抜け魔王国へと向かった。