「ジェイン、あなた恋というものを知ってる?」

「鯉?」

何をいきなり……

鯉はこの地方の名産だ

オレも小さな頃から食ってっけど

「そんくらい知ってるよ
昨日だって食べたし」

頭をかかえる母さん

「どうしたの?」

「知らないみたいね」

「いや、だから昨日食べたって」

おいしくいただいたって

「……あなたは女らしくの前に教養も身につけなければね
語彙が乏しすぎよ」

え、これでもオレこの辺じゃ頭いいほうなんだけど

首をかしげると呆れたように母さんが言った

「……もういいわ
ヴィンストン王立学院に入学しなさい
これは決定事項よ」

「ちょっと待って、オレまだ何にも言ってない……」

「決定事項なの
あなたの意見を反映する気はないのだからこれ以上口ごたえするのはやめなさい」

こ、怖い……

でも言いなりになるつもりはないから

「行かないよ!」

「子供が何を言ってるの
自分の力では生きていけないのに
子供は自立するまでは親の言うことを聞かなければならないの
文句があるのなら自立してからになさい」

自立ってどうやって……

オレが言い返せないでいると母さんは独り言のようにつぶやいた

「結婚、というのも一つの手ではあるわね」

け、結婚?

結婚ってあの男と女が教会で誓い合うっつうアレ?

結婚……結婚……

結婚って男がいなきゃできないんだよな

今現在、オレの周りに男はいない

父親と兄のみ

つまり男がいる場所に行かなければ結婚はできない

イコール自立もできない

……母さんに従うみたいで嫌だけど

ヴィンストン王立学院に入学すれば早く自立できる

なら

「母さん、オレ入るよ
ヴィンストン王立学院に入る」

母さん目ぇまんまる

そんなに驚くことだったのか

母さんひでぇ……って

ヤバい!こんなことしてるヒマない

ヴィンストン王立学院の入学試験は来月

落ちたら元も子もない

急いで勉強しなきゃ

ヴィンストン王立学院に入って、そんで



早いとこ自立してやる―――――――――