――学校に着いて、教室の前まで一緒に行く。
「もう、毎日毎日ついてこなくていいのに」
いつからだろう。
桃くんがあたしの教室までついてくるようになったのは。
確かあれは……桃くんが今年この高校に入学してから一ヶ月後くらい。
体育祭が始まる、少し前のことだ。
桃くんとは同じチームで、体育祭練習の時にわざわざ桃くんがあたしのところまで来て抱きしめに来たのを覚えている。
その時くらいから、桃くんはあたしの教室までついてくるようになった。
朝だけならいいけど、なぜか昼休みも、放課後まで。
昼休みになると、ちゃっかりお弁当を持ってあたしの教室までやってきて、一緒にお昼を食べる。しかも昼休みが終わるまで、あたしに抱きついて離れない。
これが今、あたしのクラスでは“当たり前の光景”になりつつある。
運動神経のいい桃くんは部活にも入らないで、放課後を知らせるチャイムが鳴るとすぐにあたしの教室までやってくる。
どうして帰りまで一緒なんだろう。
……まあ、嫌じゃないんだけど。
「僕と一緒じゃ……イヤ?」
あたしの言葉に、子犬みたいに首をかしげて聞いてくる桃くんに、あたしは思わずキュンッと胸を高鳴らせる。
「イヤなわけないじゃん!」
「そっか~。よかった!」
ふわりと柔らかく笑う桃くんは、まさしく天使で。
正面からギュッと一瞬抱きついた桃くんは、「また昼休みにね、雪ちゃん!」と言い残して、自分の教室へと行ってしまった。



