とびきり甘い、桃くんのワルい癖。
どうしてあたし限定なのか、桃くんに聞いてもはぐらかされてしまう。
早く理由を聞かせてほしいのに。
「もうっ、離れてよ」
「雪ちゃん可愛い!」
離れてほしかったのに、逆にさらに強く抱きしめられてしまった。
桃くんって意外と力があるんだな、とのんきに思っているあたし。
「か、可愛くないよ!桃くんの方が可愛いよ?」
「……ムッ」
これもいつものこと。
あたしが桃くんに「可愛い」と言うと、いつも桃くんは頬を膨らましてムッとする。
桃くんにとって「可愛い」は禁句らしい。
けど、本当のことなのにな。
あたしなんかよりも、桃くんの方がよっぽど可愛い。
「……可愛いのは雪ちゃんの方だよ」
ボソッと呟いた桃くんの声は、あたしには届かなかった。
あたしは無理やり桃くんの腕を放した。
そしてずっと止まっていた足を動かし、一緒に学校へ登校する。
これがあたしたちの日課。
抱きしめられて、それを放して、並んで歩く。
そんな短くて可愛い朝の時間。



