「あ、ありがとう」
それでもあたしの答えは決まっていて。
どれだけ王泉くんがいい人だと知っていても、あたしの想いはずっと前から桃くんのものだから、たったひとつの答えが揺れることはないんだ。
「ごめんなさい」
あたしは深く頭を下げて、そう答えた。
静かなこの教室には、よく響いたあたしの声。
今、王泉くんはどんな表情をしているのかな。
そしてあたしは、どんな表情をしているんだろう。
苦しくて切なくて、振る方もこんなに痛い気持ちをしなくちゃいけないんだって思った。
振られた方がよっぽど辛い気持ちなはずなのに、あたしの方が泣きたくなってしまった。
もしもあたしが桃くんに告白して振られたら、今よりずっと泣きたい気持ちになるのかな。
「顔を上げてよ」
「……王泉くん」
あたしがゆっくりと顔を上げると、王泉くんが視界に入った。
……王泉くんは、笑っていた。
今にも泣きそうなくらい不格好なその笑顔は、あたしの心臓を揺らす。
「ごめんね」
「ううん、いいんだ。はっきりと言ってくれてありがとな」
こんなにも切ない笑顔を、あたしは今まで見たことがない。
そんな表情をさせているあたしは、今どんな顔をしてる?王泉くん。



