四百年の誓い

 起こしてしまわないように、そっと触れるように。


 美月姫は優雅に、唇を重ねた。


 夢の中で優雅にそっくりな武家の御曹司と交わした口づけと、全く同じ感触。


 何もかも自分が体験してきたことのように感じられた。


 「ごめんなさい……」


 なぜか美月姫が口にしたのは、謝罪の言葉。


 優雅の耳には届かなかったようで、依然として穏かな表情で眠りの底。


 (私は……あの時約束を守れなかった)


 「月光姫」だった頃の記憶が、そう言わせている。


 福山冬悟は死を目前にして月光姫に、「決して後を追ってはいけない」と言い残した。


 ところが月光姫は、約束を守ることができなかった。


 冬悟を死に追いやった仇である冬雅に無理やり側室にされ、憎んでも憎みきれないはずだったのに。


 やがて気持ちが揺れ動いてしまった。


 冬雅の孤独を知り、突き放せなくなってしまい、やがて愛情を感じ始めていた。


 そんな自分が許せなくて、冬悟を忘れゆくことを拒むかのように、立待岬(たちまちみさき)から身を投げた。


 お腹の子供も運命を共にした。


 身を投げ、どこまでも広がる海へと落ちていく瞬間。


 水面が近づくにつれて月光姫は意識を失ったのだが、その時のように美月姫の意識もどこかへと吸い込まれていった。