「あぁ、椿さんが羨ましいです!」
ドンッとハイボールの入ったグラスをテーブルに置いて、佳織ちゃんが赤い顔でアゴをしゃくった。
どうやら彼女は酔っ払っているらしい。
『アタシの居酒屋』という女性店主が切り盛りしている立ち飲み屋が近くに出来て、それ以来その居酒屋は私と佳織ちゃんの行きつけになりつつある。
実際、今日も2人で仕事終わりに来ていた。
しかしながら、私は佳織ちゃんが発した訳の分からない聞き捨てならないセリフを拾い上げ、眉を寄せる。
「羨ましい?なんで?」
「だって橋浦さんにめちゃくちゃ信頼されてるじゃないですかぁ!」
佳織ちゃんはそう訴えて私を見つめてくる。その目は潤んでいるが、泣きたいとかいうことではなくおそらくお酒のせいだと思われる。
「もう一緒に働いて6年目だからね、むしろ信頼されてなかったらヤバいレベルでしょ」
「それにそれに、椿さんいっつもメイクもヘアアレンジも完璧だしっ!小物とかも全部オシャレだしっ!いちいちセンスいいしっ!」
「年相応のものを身につけてるだけだよ。佳織ちゃんみたいに可愛いものをつけたくても、そろそろ限界な年頃なのよ」
「そんなことないです!…………あー、椿さん、きっと部屋のインテリアとかもめちゃくちゃオシャレなんだろうなぁ。今度泊まりに行ってもいいですか!?」
「うぐっ!ゲホッゴホッ」
食べかけの豚の角煮が喉に詰まる。
あまりにも咳き込むので、心配した佳織ちゃんが私の背中をさするほどだった。
慌ててビールで流し込む。
「へ、部屋ねぇ。全然オシャレとかじゃなくて、ほんと安物の家具で適当に揃えたから人様にお見せできないのよ」
「またまた、そんなバカな〜」
佳織ちゃんは無邪気に笑っていたけれど、こっちは本気で笑えない。
インテリアにこだわるどころか、それ以前に他人を上げることが出来ないくらいに片付いていないあの汚部屋へ招き入れることなど、絶対にあってはならない。
外側だけ綺麗に塗り固めた、典型的な干物女だとバレてしまう。



