それから電車に乗り、ぎゅうぎゅうのすし詰め状態の帰宅ラッシュの中、真山は何も言わずに私をかばうように立ってくれた。
これもいつものこと。早番の時の恒例になりつつある。
ドン無しの壁ドン状態は相変わらず心臓が慣れてくれない。
片手を私の顔の横につきながら、乗客に押された真山が時折眉を寄せる。
そのたびに申し訳ない思いになったりした。
「つらいなら無理しなくてもいいんですけど……」
「いえ。仕事ですから」
大したことではない、というように答える真山の顔を見上げて、ちょっとだけ胸がチクンとなった。
今のチクンってなんだ?
考えていたら、ガタッと電車が揺れて真山がこちらに向かって少しよろけた。
顔が一瞬で近づき、寸のところでヤツが手に力を入れたのか止まる。
私の心臓はだいぶドキドキしてしまった。
身長差があるから、キスは出来ないだろうけど。
それでも体がくっついたり、顔が近づいたりするとドキドキするものなのね。
「ドキドキ」という久しぶりの感情に、戸惑う自分がいた。
「申し訳ありません」
事務的に謝る真山の言葉で、また私の胸がチクンと痛んだ。



