そして、軽く腕を上げて背伸びをしたあと立ち上がり


「じゃあ、俺は帰る。明日は仕事は早遅どっち?」


と尋ねてきた。
急いでバッグから手帳を出して、シフトを確認する。


「早番です」

「分かった。18時半に迎えに行く」

「よ、よろしくお願いします……」


話しながらも真山はリビングを出て、玄関に向かっている。
私の思い過ごしかどうかは分からないが、心なしか彼の表情は以前と少し違って見えた。
不思議な違和感。


「君のこと、なんでも完璧な鼻持ちならない女だと思ってたの、俺」


靴だらけの玄関の隙間で自分の靴を見つけたらしい真山が、履きながらそんなことを話し出す。
はい?と半ば投げやりに顔を上げたら、彼はいつもとは違う笑顔を私に向けてきた。
今までの意地悪な悪意に満ちたものではなく、どちらかと言うと好意的なものだ。


「干物女とかオヤジ女子って、ある意味ギャップが激しい女ってことなんだな」

「それは……いい意味で言ってますでしょうか」

「うん。だって何故か、ほっとけないもん」


面白そうに笑う彼の顔を見て、やっと分かった。
ついさっき感じた違和感はコレだ。
刺々しい空気が無くなり、ほんの少し優しい雰囲気が入り混じっているような………………ってそんなバカな。
どうした、私!


「そういうことで。おやすみ〜」

「あ、はいっ。おやすみなさい……」


別れを惜しむこともなくさっさと出ていった真山に、私の「おやすみ」が聞こえたかどうかは定かでない。
でも私にとってはものすごく久しぶりの「おやすみ」だった。


彼が私にギャップを感じたように、私もまた今日は彼にギャップを感じた。


甘党なのは薄々分かってたけれど、案外世話好きで、よく笑うこと。
失礼で冷たい印象は、無くなりつつあったのだった。