ボディーガードにモノ申す!



さっき一瞬見えた名札には、『貝山』と書いてあった。
ふむふむ、貝山くんね。
実に可愛らしいお顔のイケメンくん。
よし、彼は私の目の保養にしよう。


…………と、こんな具合にちょっとでもかっこいい人がいるとこうやって観賞用に脳内に保存してしまう。
枯れてるなぁ、と我ながら悲しくなるけど。だけどちょっと楽しんでいる自分もいる。






ひと時のコーヒータイムを過ごした後は、オフモードから仕事モードへチェンジ。
どちらかと言えばOL向けの少し大人っぽい客層をターゲットにしている私の勤めるお店は、ファッションビルの隙間にある路地に入り込むとすぐにある。


セレクトショップなので買い付けはほとんど店長が行う。私たち従業員は、ひとつひとつの服の良さや個性をしっかり頭に入れて接客に取り組むことが大事になってくる。


簡単にアレンジした髪の毛に、シンプルなゴールドのバレッタをつけて鏡で確認する。
開店前の姿見で着ている服のシワを軽く伸ばしていたら、店長の橋浦さんが出勤してきた。


「おはよ、広瀬」

「おはようございます、橋浦さん」


私だけじゃなく、もう1人後輩にあたる5歳下の佳織ちゃんも橋浦さんに「おはようございますっ」と黄色い声混じりに挨拶している。
佳織ちゃんは橋浦さんに憧れているらしい。


橋浦さんは男性だ。
レディースものしか扱わないうちのお店だけど、買い付けは全て橋浦さんによるもの。
ここのオーナーである馬場さん(超オシャレなマダム!)が橋浦さんのセンスを気に入り、彼を店長として雇ったのだ。


41歳独身の橋浦さんは、かの有名な日本人メジャーリーガーにちょっと似た感じのヒゲの良く似合う大人の男性。
帽子を好んでいつも身につけていて、今日はハンチングをかぶっている。
どことなく色っぽくて、そして人間観察が得意で。私や佳織ちゃんが落ち込んでいたり、浮き足立っていたりするとすぐに指摘してくる。
一緒に働くスタッフとしては心強い反面、この人には隠し事は聞かないなと思い知らされるのだ。
ちなみにヘビースモーカー。